過去問解説(企業経営理論)_2021年(令和3年) 第7問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★☆☆☆☆(競争戦略の基礎)
  • 正答率: ★★★★☆(正答率75%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(経験曲線と価格戦略)

第7問

競争戦略に関する事項の説明として、最も適切なものはどれか。


M.ポーター(M. Porter)によれば、競争戦略の基本は、規模の拡大による低コスト化の実現と製品差別化の同時追求にあり、製品差別化と結びつかない低コスト化の追求は、短期的には成功を収めても、中長期的には持続的な競争戦略にはならない。
ある特定の製品の生産・販売の規模を拡大することによって、生産・販売に関わるコスト、特に単位当たりコストが低下する現象は、「範囲の経済」と呼ばれており、コスト・リーダーシップの基盤となる。
経験効果とは、累積生産量の増加に伴い、単位当たりコストが一定の比率で低下する現象である。この累積生産量と単位当たりコストの関係に基づくと、将来の累積生産量から単位当たりコストを事前に予測して、戦略的に価格を設定することができる。
製品差別化が実現している状況では、当該製品の顧客は代替的な製品との違いに価値を認めているために、競合製品の価格が低下しても、製品を切り換えない。したがって、このような状況では、需要の交差弾力性は大きくなる。
製品ライフサイクルの初期段階で、コスト・リーダーとなるためには、大幅に価格を引き下げて、一気に市場を立ち上げるとともに、市場シェアを高める「上澄み価格政策」が有効である。

出典:中小企業診断協会|2021年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:ウ


解説

ア:×
 ポーターの基本戦略は「コスト・リーダーシップ」「差別化」「集中」のいずれかにフォーカスすること。両立を安易に同時追求すると“中途半端(stuck in the middle)”に陥るとされ、記述は不適切。

イ:×
 特定製品の規模拡大で単位コストが下がるのは「規模の経済(economies of scale)」。範囲の経済は複数製品・事業で資源を共有してコスト低減する概念であり、用語誤り。

ウ:〇
 経験効果(経験曲線)は累積生産量が倍増するごとに単位当たりコストが一定比率で低下するという関係。将来の累積量からコストを予測し、先行的に価格を設定する戦略(経験曲線価格設定)が可能。

エ:×
 差別化が効いているほど、競合価格の変化に対する自社需要の反応(交差弾力性)は小さくなる。記述は逆。

オ:×
 大幅値下げで市場を素早く立ち上げるのは「浸透価格(ペネトレーション)」であり、「上澄み価格(スキミング)」は導入期に高価格で利幅回収する戦略。用語逆。


学習のポイント

  • 経験曲線の要旨:
    累積生産量の倍増でコストが一定比率で低下。コスト予測と価格設定に活用する。
  • 規模と範囲の経済:
    規模=同製品の量拡大でコスト低減。範囲=複数製品で資源共有しコスト低減。
  • 差別化と弾力性:
    差別化が強いほど交差弾力性は小さい(競合値下げでも顧客は動きにくい)。
  • 導入期の価格戦略:
    浸透価格=低価格で普及・シェア獲得。上澄み価格=高価格で先行回収。使い分けを暗記。