過去問解説(企業経営理論)_2020年(令和2年) 第32問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★★☆☆(調査手法と製品ミックスの応用)
  • 正答率: ★★★☆☆(正答率60%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(マーケティング実務の基礎)

問題文

次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。

文具の製造・販売を行う中小企業のA社は、従来、売上の多くを大手文具メーカー向けの多様なOEM製品からあげてきた。しかし社会のデジタル化が進む一方で、アナログな文具の人気が高まりつつある昨今の市場環境を鑑みて、A社では今後自社ブランドによる文具の製造・販売を拡大していくことを検討していた。
A社では、働く若い女性や女子学生が、オフィスや自宅、学校で使用する文具が有望ではないかとかねてより考えており、①このセグメントにおけるニーズを探り、確認するためのさまざまな調査を実施することを計画していた。
またこれと並行して、同セグメントに向けて自社ブランドによる製品を発売する場合、どのような②製品ミックスとすべきかについても、検討を重ねていた。

(設問1)

文中の下線部①に関する記述として、最も適切なものはどれか。

オフィスで働く数名の若い女性を対象としたフォーカスグループ・インタビューを実施することにより、このセグメントのニーズに関する一般論を導き出すことができる。
オフィスや自宅、学校における文具の利用に関するエスノグラフィー調査を実施したところ、フォーカスグループ・インタビューとは異なる結果が得られた。そのため両者の結果を考慮して製品開発を進めることにした。
調査には、質問票を用いる方法や機械装置を用いる方法などがある。後者には調査対象者の身体的反応を測定する方法なども含まれるが、これにより得られるデータは複雑であるため、データの分析や解釈、調査結果から導かれる戦略策定などは、リサーチャーに任せるべきである。
調査を実施する前に、このようなニーズに関して社外ですでに行われた調査や報告などA社にとっての一次データを入手できないか、十分に検討する必要がある。

(設問2)

文中の下線部②に関する記述として、最も適切なものはどれか。

1つの製品ラインには1つのブランドが対応していなければならないため、A社では発売する製品ライン数と同じだけのブランドを用意する必要がある。
A社が発売を計画している小型のホチキスについては、価格や色のバリエーションを用意することにより、複数アイテムで販売することを検討していた。
A社の競合企業であるS社では、販売中の文具における特定の製品ラインのアイテム数を実験的に減らしてみたところ、売上と利益がともに増加した。この結果からS社は、この製品ラインの幅が広すぎると判断した。
製品ラインを立案するためには、一般的には想定する製品ラインを構成するすべての製品ミックスと製品アイテムを検討する必要がある。

出典: 中小企業診断協会|2020年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

  • 設問1:イ
  • 設問2:イ

解説

(設問1)

ア:×
フォーカスグループ・インタビューは少人数の意見を深掘りするものであり、一般論を導くには不十分。

イ:〇
エスノグラフィー調査とフォーカスグループ・インタビューは異なる結果を示すことがあり、両者を考慮して製品開発に活かすのは適切。

ウ:×
調査データの分析や解釈はリサーチャー任せにせず、企業側も積極的に関与する必要がある。

エ:×
社外調査や報告は「二次データ」であり、一次データではない。記述は誤り。

(設問2)

ア:×
1つの製品ラインに複数ブランドを展開することも可能であり、必ずしも1対1対応ではない。

イ:〇
同一製品に価格や色のバリエーションを持たせ、複数アイテムとして展開するのは製品ミックス戦略として適切。

ウ:×
アイテム数削減による売上増加は「製品ラインの幅」ではなく「製品ラインの奥行き(デプス)」に関する判断。

エ:×
製品ラインを立案する際に、すべての製品ミックスとアイテムを網羅的に検討する必要はなく、戦略的に選択する。


学習のポイント

  • 調査手法:
    ・フォーカスグループ=少人数の意見を深掘り。
    ・エスノグラフィー=観察を通じた生活文脈の理解。
    ・一次データ=自社が直接収集したデータ。二次データ=既存の外部調査や報告。
  • 製品ミックス戦略:
    ・幅(ブレッドス)=製品ラインの数。
    ・奥行き(デプス)=各ライン内のアイテム数。
    ・一貫性(コンシステンシー)=製品ライン間の関連性の度合い。
    → 試験では「幅・奥行き・一貫性」の3要素を整理して覚えると混乱しにくい。
  • 調査活用の姿勢:
    ・複数の調査手法を組み合わせることで、より信頼性の高いインサイトが得られる。
    ・一次データと二次データを区別し、両者を補完的に活用することが重要。
  • 試験対策のコツ:
    ・「エスノグラフィー=観察」「フォーカスグループ=討議」と対比して覚える。
    ・製品ミックスは「幅・奥行き・一貫性」の3視点で整理。
    ・設問では「誤った用語の使い方」や「一次/二次データの混同」がよく問われるので注意する。