過去問解説(企業経営理論)_2019年(令和元年) 第7問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★☆☆☆(経験曲線と規模の経済の区別)
  • 正答率: ★★★★☆(正答率70%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(コスト優位メカニズムの基礎)

問題文

経験効果や規模の経済に関する記述として、最も適切なものはどれか。


経験効果に基づくコスト優位を享受するためには、競合企業を上回る市場シェアを継続的に獲得することが、有効な手段となり得る。
経験効果は、ある一時点での規模の大きさから生じるコスト優位として定義されることから、経験効果が生じる基本的なメカニズムは、規模の経済と同じである。
生産工程を保有しないサービス業では、経験効果は競争優位の源泉にならない。
中小企業では、企業規模が小さいことから、規模の経済に基づく競争優位を求めることはできない。
同一企業が複数の事業を展開することから生じる「シナジー効果」は、規模の経済を構成する中心的な要素の1つである。

出典: 中小企業診断協会|2019年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:ア


解説

ア:〇
経験効果(経験曲線)は累積生産量・累積経験の増加で学習・工程改善が進み、単位コストが低下する。高シェアは累積を加速し、コスト優位につながりやすい。

イ:×
規模の経済は「同時点の生産規模」による平均費用低下、経験効果は「累積量(時間軸)」による学習・改善での費用低下。メカニズムは同一ではない。

ウ:×
サービスでも累積接客・プロセス設計・IT活用などで学習が進み、処理時間短縮や品質安定化が起こるため、経験効果は十分に優位の源泉になる。

エ:×
中小でもニッチ集中やプロセス標準化で規模の経済(スケール・スコープ)を部分的に享受しうる。規模が小さいことは制約であって不可能の断定は誤り。

オ:×
シナジー効果はスコープの経済(事業間資源の共用)に近い概念で、規模の経済(同一製品の大量生産)とは中心要素が異なる。


学習のポイント(続き)

  • 経験効果と規模の経済の違いを整理する:
    ・規模の経済=「同時点の生産量」が増えることで平均費用が低下(固定費の分散、専用設備の利用など)。
    ・経験効果=「累積生産量」が増えることで学習や改善が進み、効率化によって費用が低下。
  • 経験効果の実務的意義:
    ・高シェアを維持することで累積経験が加速し、コスト優位を強化できる。
    ・サービス業でも、接客やオペレーションの標準化・マニュアル化・IT活用によって経験効果が発揮される。
  • 規模の経済の限界:
    ・中小企業でもニッチ市場に集中することで部分的に享受可能。
    ・ただし、過剰な規模拡大は柔軟性を失わせ、逆にコスト増につながる場合もある。
  • スコープの経済との違い:
    ・規模の経済=「同じものを大量に作る」ことでコスト低下。
    ・スコープの経済=「異なるものを一緒に作る」ことで資源を共有しコスト低下。
    ・シナジー効果はスコープの経済に近い概念であり、規模の経済とは区別する。
  • 試験対策のコツ:
    ・「経験効果=累積」「規模の経済=同時点」とキーワードで覚える。
    ・サービス業にも経験効果は適用可能であることを押さえる。
    ・シナジー効果は規模ではなくスコープに関連する点を区別しておく。