過去問解説(経済学・経済政策)_2021年(R3年) 第5問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★★☆☆(乗数理論と財政政策)
  • 正答率: ★★★☆☆(理論と直感の両立)
  • 重要度: ★★★★☆(乗数の理解は必須)

問題文

生産物市場の均衡条件は、総需要 = 総供給である。総需要 AD と総供給 AS が以下のように表されるとき、下記の設問に答えよ。

AD = C + I + G
C = C₀ + c(Y − T)
AS = Y

ここで、C は消費、I は投資、G は政府支出、C₀ は基礎消費、c は限界消費性向(0 < c < 1)、Y は所得、T は租税である。

(設問1)

乗数に関する記述として、最も適切な組み合わせを下記の解答群から選べ。

均衡予算乗数は、1 / (1 − c) である。
政府支出乗数は、1 / (1 − c) である。
租税乗数は、1 / (1 − c) である。
投資乗数は、1 / (1 − c) である。

〔解答群〕

aとb
aとc
bとc
bとd
cとd

(設問2)

景気の落ち込みを回避するための財政政策の効果に関する記述として、最も適切な組み合わせを下記の解答群から選べ。

政府支出の増加額と減税額が同じ規模のとき、景気拡大の効果は政府支出の増加の方が大きい。
政府支出の増加額と減税額が同じ規模のとき、両者の景気拡大の効果は等しい。
政府支出の増加に必要な財源を増税によってまかなったとしても、政府支出の増加による総需要の拡大効果は増税による総需要の減少分を上回るので、増加させた政府支出の分だけ景気拡大の効果がある。
政府支出の増加に必要な財源を増税によってまかなうと、政府支出の増加による総需要の拡大効果は増税による総需要の減少によって相殺されてしまい、景気拡大の効果はなくなってしまう。

〔解答群〕

aとc
aとd
bとc
bとd

出典: 中小企業診断協会|2021年度 第1次試験問題|経済学・経営政策(PDF)

解答

  • 設問1:エ(bとd)
  • 設問2:ア(aとc)

解説(設問1:乗数の理解)

  • a:×
     均衡予算乗数は「政府支出の増加と同額の増税を同時に行う」場合の乗数で、理論上は「1」。記述の「1 / (1 − c)」は誤り。
  • b:〇
     政府支出乗数は「1 / (1 − c)」で正しい。政府支出は直接総需要に加算されるため、乗数効果が大きい。
  • c:×
     租税乗数は「−c / (1 − c)」であり、マイナスの符号がつく。記述は誤り。
  • d:〇
     投資乗数も政府支出と同様に「1 / (1 − c)」。乗数効果の計算式として正しい。

解説(設問2:財政政策の効果)

  • a:〇
     政府支出は直接的に需要を押し上げるが、減税は可処分所得を通じて間接的に消費を刺激する。限界消費性向が1未満である限り、政府支出の方が効果が大きい。
  • b:×
     上記の理由により、効果は等しくない。記述は誤り。
  • c:〇
     増税による需要減少よりも、政府支出による需要増加の方が大きければ、差分として景気拡大効果が残る。これは「均衡予算乗数=1」の理論に基づく。
  • d:×
     均衡予算乗数が1であるため、政府支出と増税が同額なら、景気はその分だけ拡大する。記述は誤り。

学習のポイント

  • 乗数の種類と式:
    ・政府支出乗数:1 ÷ (1 − 限界消費性向)
    ・投資乗数:1 ÷ (1 − 限界消費性向)
    ・租税乗数:− 限界消費性向 ÷ (1 − 限界消費性向)
    ・均衡予算乗数:1(政府支出と増税が同額なら、純効果は支出分だけ残る)
  • 財政政策の効果:
    ・政府支出は直接的に需要を押し上げるため、限界消費性向が1未満であれば減税より効果が大きい。
    ・増税と政府支出を同時に行う「均衡予算政策」でも、支出の方が効果が強いため、景気は拡大する。
  • 試験対策:
    ・式の暗記だけでなく、政策の直感的な効果(誰が使うか、どれだけ使うか)を理解しておくと、応用問題にも対応しやすい。
    ・限界消費性向が高いほど、乗数効果は大きくなる。