過去問解説(経営法務)_2023年(R5年) 第17問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度:★★★☆☆(複数知識の統合や、誤答肢の吟味が必要。)
  • 正答率:★★★☆☆(正答率50〜70%。標準的な難易度。)
  • 重要度:★★★★☆(頻出論点。制度理解に直結。)

問題文

以下は、中小企業診断士であるあなたと、X株式会社の代表取締役甲氏との会話である。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。なお、甲氏には、長男、次男、長女の3人の子ども(いずれも嫡出子)がいる。


甲 氏:「そろそろ後継者に会社を任せようと思っています。私には3人の子供がいるのですが、次男に自社の株式や事業用の資産を集中して承継させたく、生前贈与等を考えています。」

あなた:「原則として、ご自身の財産をどのように処分するのも自由ですが、民法は、遺族の生活の安定や最低限度の相続人間の平等を確保するために、一定の相続人のために法律上必ず留保されなければならない遺産の一定割合を定めております。この制度をAといい、生前贈与や遺言の内容によっては、株式や事業用資産を承継したご次男が、他の相続人のBを侵害したとして、その侵害額に相当する金銭の支払を請求される可能性があります。場合によっては、承継した株式や事業用資産を売却せざるをえない事態もありえますので、注意が必要です。」

甲 氏:「将来もめずにうまく会社を引き継ぐ方法はないですか。」

あなた:「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律、いわゆる経営承継円滑化法に、民法の特例が設けられています。先代経営者から後継者に贈与等された自社株式について、一定の要件を満たしていることを条件に、遺留分の算定の基礎となる相続財産から除外するなどの取り決めが可能です。これにより、後継者が確実に自社株式を承継することができます。必要があれば、知り合いの弁護士を紹介します。」


(設問1)

会話の中の空欄に入る用語として、最も適切なものはどれか。

遺留分
寄与分
指定相続分
法定相続分

(設問2)

会話の中の下線部について、経営承継円滑化法における民法の特例に関する記述として、最も適切なものはどれか。

経営承継円滑化法における民法の特例を受けることができるのは、中小企業者のみで、個人事業主の場合は、この特例を受けることはできない。
経営承継円滑化法における民法の特例を受けるためには、会社の先代経営者からの贈与等により株式を取得したことにより、後継者は会社の議決権の3分の1を保有していれば足りる。
経営承継円滑化法における民法の特例を受けるためには、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可の双方が必要である。
経営承継円滑化法における民法の特例を受けるためには、推定相続人全員の合意までは求められておらず、過半数の合意で足りる。

出典:中小企業診断協会|2023年度 第1次試験問題|経営法務(PDF)


解答

設問1:ア
設問2:ウ


解説

(設問1)

ア:〇
 民法における「遺留分」は、一定の相続人に対して法律上留保される最低限の相続割合であり、これを侵害する贈与や遺言があった場合、侵害額に相当する金銭の請求が可能となる。会話文の文脈に合致する正しい用語である。

イ:✕
 寄与分は、被相続人の財産形成に特別の寄与をした相続人に対して加算される制度であり、本問の文脈には該当しない。

ウ:✕
 指定相続分は、遺言等で定められる相続割合であり、遺留分のような最低保障ではない。文脈に合致しない。

エ:✕
 法定相続分は、民法で定められた相続割合であり、遺留分とは異なる概念。会話文の趣旨には合致しない。

(設問2)

ア:✕
 民法の特例は、法人だけでなく個人事業主も対象となる場合がある。中小企業者に限定する本肢は誤り。

イ:✕
 議決権の保有割合は要件の一部だが、3分の1では足りず、より高い割合が求められる。要件の誤認があるため誤り。

ウ:〇
 経営承継円滑化法に基づく民法の特例を適用するには、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可の両方が必要である。正しい記述である。

エ:✕
 推定相続人全員の合意が必要であり、過半数の合意では足りない。要件の誤認があるため誤り。


学習のポイント

  • 遺留分制度は、相続人の最低限の権利を保障する制度であり、事業承継時にも重要な論点。
  • 経営承継円滑化法では、民法の特例として遺留分算定から株式を除外する制度があるが、適用には厳格な要件がある。
  • 特例適用には、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が両方必要である点を確実に押さえること。