難易度・正答率・重要度
- 難易度:★★★★☆(応用的な推論や制度比較が必要。)
- 正答率:★★★☆☆(正答率50〜70%。標準的な難易度。)
- 重要度:★★★★☆(事業承継・株式制度・遺留分の理解に直結。)
問題文
以下の会話は、X株式会社(以下「X社」という。)の代表取締役甲氏と、中小企業診断士であるあなたとの間で行われたものである。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。
なお、甲氏は、現在、77歳であり、配偶者(a)と2人の子(bとc)がいる。また、X社は、公開会社ではなく、かつ、大会社ではない。
甲氏:「私も、77歳なので、最近、X社の事業承継はどうしたらよいかを考えています。現在、X社の株式は、私が80%、10年前に70歳でX社を退職した乙氏が20%持っています。aとcは、X社の仕事をしていないので、私が死んだ後は、私の持っているX社の株式はすべてbに相続させたいと考えています。bに相続させるに当たって、注意点はありますか。」
あなた:「甲さんは、X社の株式の他にも、自宅や預貯金の財産をお持ちですので、遺言書を作って、これらの分配方法を定めておくことがよいと思いますが、遺言では、相続人の遺留分に注意する必要があります。」
甲氏:「分かりました。私の財産は、ほとんどがX社の株式なので、遺留分のことを考えるとaとcにもX社の株式を相続させることになるかもしれません。この場合でも、aとcがX社の経営に口を挟むことなく、bが自分の考えに従ってX社を経営してほしいと思っています。何か方法はありますか。」
あなた:「aさんとcさんにもX社の株式を相続させることとする場合には、議決権制限株式を発行し、bさんには普通株式、aさんとcさんには議決権制限株式を相続させるという方法を検討しておくことが考えられます。法律上、A。」
甲氏:「乙氏は最近病気がちのようで、相続が発生するかもしれません。正直、乙氏の相続人の丙氏とはそりが合わないので、丙氏にはX社の株主にはなってもらいたくありません。何か方法はありますか。」
あなた:「相続人に対する売渡請求に関する定款変更を行い、乙氏が死亡した場合には、X社から乙氏の相続人に対し、株式の売渡請求を行うことができるようしておくことが考えられます。B。」
(設問1)
会話の中の下線部の「遺留分」に関する記述として、最も適切なものはどれか。
(設問2)
会話の中の空欄AとBに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
B:この相続人に対する売渡請求は、相続があったことを知った日から1年以内に行使しなければなりませんので、注意が必要です
B:この相続人に対する売渡請求は、相続があったことを知った日から2年以内に行使しなければなりませんので、注意が必要です
B:この相続人に対する売渡請求は、相続があったことを知った日から6か月以内に行使しなければなりませんので、注意が必要です
B:この相続人に対する売渡請求は、相続があったことを知った日から1年以内に行使しなければなりませんので、注意が必要です
出典:中小企業診断協会|2021年度 第1次試験問題|経営法務(PDF)
解答
設問1:イ
設問2:ア
解説
【設問1】
ア:×
遺留分侵害額請求権の消滅時効は、3か月ではなく、より長期の期間が定められている。記述は誤り。
イ:〇
遺留分の放棄は、相続開始前でも家庭裁判所の許可を得ることで効力を生じる。制度趣旨に合致した正しい記述。
ウ:×
除外合意・固定合意は、推定相続人全員の合意が必要。過半数では効力を生じない。記述は誤り。
エ:×
遺留分の割合は、配偶者・子ともに法定相続分の一定割合であり、記述の数値は誤っている。
【設問2】
ア:〇
公開会社ではない会社では、議決権制限株式の発行限度は制度上定められていない。柔軟な設計が可能。
相続人に対する売渡請求は、相続があったことを知った日から1年以内に行使する必要がある。制度上の制限期間として正しい。
イ:×
議決権制限株式の発行限度は、非公開会社では制度上存在しないため「2分の1までしか発行できない」という記述は誤り。
売渡請求の行使期限も「2年以内」ではなく、正しくは1年以内。記述は誤り。
ウ:×
発行限度「2分の1まで」は誤り。売渡請求の行使期限「6か月以内」も制度上の定めとは異なる。記述は誤り。
エ:×
発行限度「5分の1まで」は誤り。売渡請求の行使期限「1年以内」は正しいが、Aの記述が誤っているため全体として不適切。
学習のポイント
- 遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を得ることで事前に可能。事業承継対策として重要。
- 議決権制限株式は、非公開会社では発行限度がなく、経営権の集中に有効。
- 相続人に対する売渡請求は、定款に定めることで実現でき、相続トラブルの予防策となる。
- 「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」による民法特例は、推定相続人全員の合意が必要。