過去問解説(経営法務)_2021年(R3年) 第16問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度:★★★★☆(契約・登録・権利行使の理解が必要。)
  • 正答率:★★★☆☆(正答率50〜70%。標準的な難易度。)
  • 重要度:★★★★☆(ライセンス契約の実務理解に直結。)

問題文

以下の会話は、X株式会社の代表取締役甲氏と、中小企業診断士であるあなたとの間で行われたものである。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。


甲氏:「弊社が特許を取得した包丁の発明について、Y社から、その包丁を製造させて欲しいという申し出がありました。弊社としては、弊社の工場の生産能力にも限界があるので、ライセンス契約を締結しようと考えていますが、ライセンス契約には様々な種類があると聞きました。どのようなライセンス契約が適切でしょうか。」

あなた:「特許権のライセンスとしては、大きく分けて、専用実施権と通常実施権というものがあります。専用実施権は、により、効力を生じることになります。その場合、設定行為で定めた専用の範囲内については、御社は、。また、Y社は、その範囲内で、侵害行為者に対して、差止めや損害賠償請求ができるようになります。」

甲氏:「なるほど。では、通常実施権はどういうものでしょうか。」

あなた:「通常実施権は、御社とY社との契約により効力を生じ、Y社は契約で定めた範囲内で、その発明を実施することができるようになります。」

甲氏:「実は、Y社からは、Y社以外の第三者との間ではライセンス契約を締結しないで欲しい、その旨を弊社との間のライセンス契約で定めて欲しいと言われており、弊社としても、検討中なのですが、通常実施権につき、そもそもそのような契約は可能なのでしょうか。」

あなた:「可能です。そして、。」

甲氏:「そのような契約をした場合、Y社は、侵害行為者に対して、独断で、差止めや損害賠償請求ができるようになるのでしょうか。」

あなた:「独占以外の特約がない場合、特許権者である御社の有する権利の代位行使は除き、固有の権利としては、差止請求はとされており、損害賠償請求は認められるとされています。私の知り合いの弁護士を紹介しますので、相談されてはいかがでしょうか。」

甲氏:「ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。」


(設問1)

会話の中の空欄AとBに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。

A:御社とY社との契約
B:Y社の許諾なくして実施することができます
A:御社とY社との契約
B:Y社の許諾なくして実施することはできません
A:御社とY社との契約及びそれに基づく専用実施権設定登録
B:Y社の許諾なくして実施することができます
A:御社とY社との契約及びそれに基づく専用実施権設定登録
B:Y社の許諾なくして実施することはできません

(設問2)

会話の中の空欄CとDに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。

C:契約以外の手続は必要ありません       D:認められない
C:契約以外の手続は必要ありません       D:認められる
C:契約に加えて、通常実施権の登録も必要です  D:認められない
C:契約に加えて、通常実施権の登録も必要です  D:認められる

出典:中小企業診断協会|2021年度 第1次試験問題|経営法務(PDF)


解答

設問1:エ
設問2:ア


解説

【設問1】

A:専用実施権は、契約だけでなく、特許庁への「専用実施権設定登録」が必要。登録によって第三者に対抗できる効力が生じる。
B:専用実施権が設定された範囲については、特許権者は専用実施権者の許諾なく実施することはできない。専用実施権者が独占的に実施できる。

したがって、正しい組み合わせは「エ」。

【設問2】

C:通常実施権は契約のみで効力が生じる。登録は対抗要件ではあるが、契約自体は有効。独占的通常実施権も契約で設定可能。
D:通常実施権者は、損害賠償請求は可能だが、差止請求は原則として認められない(特許権者による代位行使を除く)。

したがって、正しい組み合わせは「ア」。


学習のポイント

  • 専用実施権は登録が必要。通常実施権は契約のみで効力が生じる。
  • 専用実施権者には独占的な実施権が与えられ、特許権者も許諾なしに実施できない。
  • 通常実施権者は、損害賠償請求は可能だが、差止請求は原則不可。
  • 独占的通常実施権の設定は契約で可能。登録すれば第三者に対抗できる。