過去問解説(企業経営理論)_2024年(令和6年) 第6問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度:★★★☆☆(複数知識の統合や誤答肢の吟味が必要)
  • 正答率:★★★☆☆(正答率50〜70%。標準的な難易度)
  • 重要度:★★★☆☆(頻出ではないが、学習価値が高い)

問題文

企業が垂直統合を行う動機や理由はさまざまである。このうち、O. ウィリアムソンの取引コスト(transaction cost)理論の観点からの説明として、最も適切なものはどれか。


相手企業との取引関係構築の際に、関係特殊的な資産への多額の投資を必要とするため。
自社に蓄積された余剰資金を活用し、資本効率を高める必要があるため。
自社の企業規模を拡大し、規模の経済性を高めるため。
市場の新規性が高く取引相手の企業が存在しないが、自社資源を柔軟に再配分して直接進出することができるため。
複数の事業を傘下に収めることで、範囲の経済性を高めるため。

出典:中小企業診断協会|2024年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:ア


解説

ア:〇
 取引コスト理論では、関係特殊的な資産(特定の取引関係でしか利用できない資産)への投資が必要な場合、相手に依存することで取引コストやリスクが増大する。このため、垂直統合によって内部化し、取引コストを削減する動機が生じる。

イ:✕
 余剰資金の活用や資本効率の改善は、投資戦略や財務戦略の観点であり、取引コスト理論の説明ではない。

ウ:✕
 規模の経済性は生産効率の観点であり、取引コスト理論の直接的な説明ではない。

エ:✕
 市場の新規性や取引相手の不存在は、先行者利益や市場参入戦略の説明であり、取引コスト理論の枠組みとは異なる。

オ:✕
 範囲の経済性は多角化戦略の説明であり、取引コスト理論の説明ではない。


学習のポイント

  • 取引コスト理論(O. ウィリアムソン)は「市場での取引コスト」と「組織内部での管理コスト」を比較し、どちらが効率的かで統合の是非を説明する。
  • 関係特殊的資産(専用設備・立地・人的スキルなど)は、相手依存度が高くなるため、取引コスト増大を招きやすい。
  • 垂直統合は、こうした取引コストを削減し、取引の安定性を確保する合理的な手段として説明される。