難易度・正答率・重要度
- 難易度:★★★☆☆(制約された合理性の要諦を整理)
- 正答率:★★★☆☆(正答率50〜70%。標準的)
- 重要度:★★★☆☆(意思決定論の基礎。行動経済・組織論に接続)
問題文
複雑な意思決定において、意思決定者は完全な合理性を追求できるだけの情報処理能力を持たないとされる。このような「制約された合理性」の下での意思決定に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
ア
意思決定者は、意思決定に際して利用可能な全ての代替案のうち、限られた数の代替案のみを考慮する。
イ
意思決定者は、代替案が満たすべき最低限の水準を設定し、その水準を満たす代替案を見つけた時点で、その代替案を選択するとともに代替案の探索を終了する意思決定原理に従う。
ウ
各代替案によって将来的に引き起こされる結果に関する知識は、不完全で部分的なものとなる。
エ
各代替案によって将来的に引き起こされる全ての結果に対して、それらを最も好ましいものから最も好ましくないものまで順位づける一貫した効用関数を、意思決定者はあらかじめ持つ。
オ
反復的な意思決定を行う状況では、意思決定者は行動プログラムのレパートリーを作り、それらを代替案の集合として意思決定に利用する。
出典: 中小企業診断協会|2024年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)
解答
正解:エ
解説
ア:〇
全代替案の網羅は困難で、可視化・想起できる限定的セットのみを検討するのが制約された合理性の前提。
イ:〇
満足化(サティスフィシング)原理。閾値を満たしたら探索を打ち切る意思決定ルールは典型。
ウ:〇
将来結果の知識は不完全・部分的になり、確率や結果の記述も曖昧になりがち。
エ:✕
一貫した効用関数で全結果を順序づけられるという仮定は、完全合理性(古典的効用理論)の枠組み。制約された合理性では現実的でない。
オ:〇
反復状況では、標準オペレーション(行動プログラム)をレパートリー化して代替案集合として用いるのが合理的。
学習のポイント
- 制約された合理性のキーワード
限定的探索、満足化原理、手続的合理性、限定的注意・記憶。完全最適化ではなく、ルールに基づく実行可能な選択に重心が置かれる。 - 完全合理性との対比
完全合理性は「全代替案の網羅・完全情報・一貫効用」で最適化する仮定。制約された合理性は「不完全情報・限定集合・ルールベース」で満足化を志向。 - 実務への示唆
標準手続・ヒューリスティクスの設計、意思決定の閾値設定、探索打切り条件の明確化がパフォーマンスと一貫性を高める。