過去問解説(企業経営理論)_2022年(令和4年) 第1問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★☆☆☆(企業戦略の基礎)
  • 正答率: ★★★★☆(正答率70%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(多角化戦略の古典研究)

問題文

企業の多角化に関する記述として、最も適切なものはどれか。


C.マルキデスによると、第二次世界大戦後の米国企業では、多角化の程度が一貫して上昇しているとされる。
R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な収益性(利益率)が上昇する関係があるとされる。
R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な成長性が低下する関係があるとされる。
伊丹敬之によると、 1 つの企業で複数の事業を営むことで生じる「合成の効果」には、相補効果と(狭義の)相乗効果の 2 種類があるとされる。そのうち、物理的な経営資源の利用効率を高めるものは、(狭義の)相乗効果と呼ばれる。
関連多角化を集約型(constrained)と拡散型(linked)に分類した場合、R.ルメルトの研究によると、拡散型より集約型の方が全社的な収益性(利益率)が高い傾向にあるとされる。

出典:中小企業診断協会|2022年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:オ


解説

ア:×
 戦後米国企業の多角化は時期により増減があり、「一貫して上昇」との断定は不正確。規制・金融環境・企業買収動向などで波がある。

イ:×
 多角化の程度と収益性は単純な正の関係ではない。特に無関連多角化は収益性を下げる傾向が指摘され、関連性や資源共有の有無が重要。

ウ:×
 成長性との関係も一律ではない。多角化の質(関連度・統合の仕方)に依存し、程度が高いほど成長性が低下するという一般化は不適切。

エ:×
 伊丹の「合成の効果」は相補効果(資源の共有で効率化)と狭義の相乗効果(相互作用で新たな価値創出)の二つ。物理的資源の利用効率向上は「相補効果」に該当する。

オ:〇
 ルメルトの分類では、関連多角化のうち「集約型(constrained)」は資源・技能の共有が強く、収益性が高い傾向。拡散型(linked)は結びつきが弱く、相対的に収益性で劣るとされる。


学習のポイント

  • 関連度が鍵:
    多角化の可否は「関連性」「資源共有」「統合のしやすさ」で判断。無関連の拡散は管理複雑性とシナジー不足で不利。
  • 伊丹の合成の効果:
    相補効果=共有・統合による効率化。
    狭義の相乗効果=事業間相互作用で新価値を創出。
  • ルメルトの分類を整理:
    集約型(constrained)関連多角化は高い収益性を期待。拡散型(linked)は相互関連が弱く、収益性は相対的に低い。
  • 試験対策のコツ:
    「用語の対応関係(相補 vs 相乗、集約 vs 拡散)」と「無関連多角化の注意点」を押さえる。