過去問解説(企業経営理論)_2022年(令和4年) 第28問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★☆☆☆☆(ブランド基礎)
  • 正答率: ★★★★☆(正答率75%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(ポジショニングの基本)

問題文

ブランドに関する記述として、最も適切なものはどれか。


既存ブランドの下で分野や用途、特徴などが異なる新製品を発売することをブランド拡張と呼び、流通側から見た場合にはさまざまなメリットがある。しかしメーカー側から見ると、ブランド拡張には当該新製品が失敗した場合に既存ブランドを毀き損そんするリスクがある一方で、メリットは特にない。
自社ブランドの競合ブランドからの差異化を目指す相対的側面と、消費者から見て自社ブランドに他にはないユニークな価値を持たせる絶対的側面とは、どちらもブランドのポジショニング戦略に含まれる。
製品カテゴリーなどを提示し、当該カテゴリー内で思いつくすべてのブランドを白紙に書き出してもらう調査により、ブランドの純粋想起について調べることができる。これに対して、ブランド名を列挙し、その中で知っているものをすべて選択し回答してもらう調査は精度が低いため、得られる結果の信頼性も低い。
ブランドとは、消費者の記憶に明確に保持されている最終製品の名称を指す。製品の中に使用されている部品や素材などにも名称が付けられていることがあるが、これらはブランドではない。
ブランドは、ナショナル・ブランド(NB)とプライベート・ブランド(PB)に分けることができる。PB は大手小売業などの流通業者が開発し製造・販売するもので大手メーカーは関わらないため、PB の売り上げが増えるほど NB を展開する大手メーカーの売り上げは減少する。

出典:中小企業診断協会|2022年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:イ


解説

ア:×
 ブランド拡張は、既存ブランド資産の活用による認知・信頼の移転、上市コスト・プロモーション効率の向上などメーカー側のメリットがある。失敗時の希釈・毀損リスクはあるが、メリットが「特にない」というのは不適切。

イ:〇
 ポジショニングは「競合との差異化(相対的側面)」と「独自価値の確立(絶対的側面)」の両立で成り立つ。市場における座標の明確化と、消費者に対する独自性の約束を同時に設計する。

ウ:×
 純粋想起は自由記述で測定するが、助成想起(認知)も有効な指標であり、精度が低いとは限らない。適切な設計・前提示バイアス管理を行えば信頼性は担保できる。

エ:×
 最終製品だけがブランドではない。部品・素材の「成分ブランド(インゲディエント・ブランディング)」も一般的(例:半導体、機能素材など)。

オ:×
 PBは流通主導だが、製造は大手メーカー等が受託するケースも多い。PB拡大がNB売上を必ず押し下げるとは限らず、市場拡大や補完関係が生じる場合もある。


学習のポイント

  • ブランド拡張の利点とリスク
    認知移転・費用削減・棚取りの容易化などの利点と、希釈・カニバリゼーションのリスクをセットで理解する。
  • ポジショニングの二側面
    競合に対する相対的差別化と、消費者への絶対的独自価値の明確化を両立させる。
  • ブランド想起の測定
    純粋想起(自由回答)と助成想起(リスト認知)を併用し、指標の意味を区別して評価する。
  • 成分ブランドの重要性
    部品・素材のブランドも消費者価値に影響し、最終製品の差別化資源となる。
  • NBとPBの関係
    代替・補完は市場次第。製造受託や共同企画もあり、二者の売上関係は一概に逆相関ではない。