過去問解説(企業経営理論)_2022年(令和4年) 第29問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★☆☆☆(価格と価値の基礎)
  • 正答率: ★★★★☆(正答率70%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(価格戦略と消費者価値)

問題文

次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。

T社が製造し販売する製品は、プライベートでもオフィスでも着ることができるカジュアルな衣料ブランドとして、ターゲットである20代~30代前半の女性を中心に人気を集めている。しかし、近年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、人々のプライベートでの外出機会が減り、同時に勤務形態にもリモートワークが普及したため、T社では①消費者が同社製品に対して感じる価値やその価格の意味について、改めて調査を行う必要を感じている。同社では、このような調査を通じて当該製品の②価格について見直す必要があるかもしれないと考えていた。


(設問1)

文中の下線部①に関する記述として、最も適切なものはどれか。

同じ製品でも、その製造プロセスなどに消費者を巻き込んでいくことを通じて、より高い価値を感じてもらうことが可能である。この場合、結果としてより高い価格で買ってもらうこと以外に、価格を据え置くことによって、より高い顧客満足を感じてもらうという選択肢もある。
消費者が価格に対して感じる意味とは「支出の痛み」であるから、価格が下がれば支出の痛みは和らぎ、価格が上がれば支出の痛みは強くなる。このため日用品の分野では、通常は価格を上げれば売り上げは低下する。このような財は「ギッフェン財」と呼ばれる。
消費者が製品が提供する価値に対して支払ってもよいと感じる価格は状況によって異なることがあるが、一物一価の原則により、同一製品に異なる価格をつけることは禁止されている。
消費者が製品の品質を判断するために用いる情報はブランドではなく価格である。このため、どのような価格を設定するかは、消費者の品質判断に強い影響を及ぼす。
プレステージ性が高いラグジュアリー・ブランドでは、価格が上がることによって、より高い価値を感じる消費者もいる。この理由は、プロスペクト理論によって説明することができる。

(設問2)

文中の下線部②に関する記述として、最も適切なものはどれか。

企業が製品につける価格を通じて消費者にメッセージを送ることを、価格シグナリングと呼ぶ。例えば、実際には低品質なのに高価格をつけることにより高品質であるように見せることは価格シグナリングに含まれるが、製品にセール価格をつけることは価格シグナリングではない。
消費者が特定の製品に関して感じる価格幅の中間値を留保価格と呼び、企業は自社のそれぞれの製品の留保価格を考慮して実際の価格を設定することが望ましい。
浸透価格とは、一般的には一気に市場シェアを獲得するためにつけられる低価格を指し、市場シェアを獲得するためには、慢性的に赤字を出すほどの低価格をつける。
別々の製品をセットにして、個々の製品の合計価格より安く販売する価格アンバンドリングでは、セットで販売される製品の間に互換性があるほど、消費者のお買い得感が増す。
本体と消耗品を組み合わせて使用する製品で、本体を低価格で、消耗品を高価格で販売することをキャプティブ・プライシングと呼ぶ。本体を低価格で販売することによる赤字を回収するためとはいえ、消耗品の価格を高く設定しすぎることは通常避ける必要がある。

出典:中小企業診断協会|2022年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

  • 設問1:ア
  • 設問2:オ

解説(設問1)

ア:〇
 共同創造(コ・クリエーション)など、製造や価値創出プロセスへの参加は知覚価値を引き上げうる。価値が上がっても価格は据え置きで満足を高める選択肢も取り得るため、記述は適切。

イ:×
 「価格の痛み」は確かに存在するが、価格を上げると売上が下がるという一般論を「ギッフェン財」で説明するのは誤り。ギッフェン財は価格上昇で需要が増える特殊ケース。

ウ:×
 一物一価は同一市場・同時点における原則であり、価格差別(クーポン、会員価格、地域・チャネル差など)は条件次第で許容される。絶対禁止ではない。

エ:×
 品質推定のシグナルは価格だけでなくブランド、評判、レビュー、保証など多様。価格が唯一という断定は不適切。

オ:×
 高価格で価値が上がる現象はヴェブレン効果等で説明されるのが一般的。プロスペクト理論は損失回避などの枠組みで、主因の説明としては不適切。


解説(設問2)

ア:×
 価格シグナリングは高価格・低価格・セール価格を含めて価格で品質やポジショニングを伝える行為全般。セール価格も明確なシグナルになり得る。

イ:×
 留保価格は消費者が支払ってもよいと考える上限価格の概念で、中間値ではない。記述は不適切。

ウ:×
 浸透価格は初期低価格で採用を促しシェア拡大を狙うが、慢性的赤字を前提とするものではない。規模の経済や経験曲線で早期に黒字化を目指す。

エ:×
 セット販売(バンドリング)と個別販売(アンバンドリング)は用語が逆。加えて、互換性が高いほどお買い得感が増すとは限らない。補完性・消費者評価の相関が鍵。

オ:〇
 キャプティブ・プライシングは本体低価格・消耗品高価格の組み合わせ。消耗品を過度に高くすると不満・離反・互換品への流出を招くため、価格設定はバランスが重要。


学習のポイント

  • 価値共創と価格
    参加体験は知覚価値を高める。価格は価値と満足の両面で設計する。
  • 価格の意味と特殊財
    一般財とギッフェン財を混同しない。痛みのフレーミングはあっても、需要理論の用語は正確に。
  • 価格差別の実務
    条件付きの価格差別は広く用いられる。セグメント別に最適化して消費者余剰を取り込む。
  • 価格シグナリング
    高価格・低価格・セール価格のすべてが市場へのメッセージ。ブランド戦略と一体で設計。
  • キャプティブ・プライシング
    本体と消耗品のトータル価値で評価される。過度な搾取は長期的収益を損なうため回避。