過去問解説(経営法務)_2019年(R1年) 第9問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度:★★★★☆(応用的な推論や制度比較が必要。)
  • 正答率:★★★☆☆(正答率50〜70%。標準的な難易度。)
  • 重要度:★★★★★(毎年出題される基本論点。制度の根幹。)

問題文

以下の会話は、中小企業診断士であるあなたと、X株式会社の代表取締役 a 氏との間で行われたものである。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。

a 氏:「今度、人気マンガ家のYさんに、当社の企業キャラクターを創ってもらうことになりました。将来的には着ぐるみやアニメを作って活用する予定です。Yさんからその著作権の譲渡を受けるために、次の契約書を作ってみたのですがどうでしょうか。」

Y(以下「甲」という。)とX株式会社(以下「乙」という。)とは、キャラクターの絵柄作成業務の委託に関し、以下のとおり契約を締結する。
第1条(委託)
乙は、甲に対し、以下をテーマとするキャラクターの絵柄(以下「本著作物」という。)の作成を委託し、甲はこれを受託した。
テーマ:乙が広告に使用するマスコットキャラクター

第2条(納入)
(1) 甲は乙に対し、本著作物をJPEGデータの形式により、2019年10月末日までに納入する。
(2) 乙は、前項の納入を受けた後速やかに納入物を検査し、納入物が契約内容に適合しない場合や乙の企画意図に合致しない場合はその旨甲に通知し、当該通知を受けた甲は速やかに乙の指示に従った対応をする。

第3条(著作権の帰属)
本著作物の著作権は、対価の完済により乙に移転する。

第4条(著作者人格権の帰属)
本著作物の著作者人格権は、対価の完済により乙に移転する。

第5条(保証)
甲は、乙に対し、本著作物が第三者の著作権を侵害しないものであることを保証する。

第6条(対価)
乙は甲に対し、本著作物の著作権譲渡の対価、その他本契約に基づく一切の対価として、金1,500,000円(消費税別途)を、2019年11月末日までに支払う。

本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保持する。
2019年  月  日
甲 Y     印
乙 X株式会社代表取締役 a  印

あなた:「そうですね。まず第3条については 、検討が必要です。また、第4条については 。詳細は弁護士に確認した方がよいと思いますので、もしよろしければ、著作権に詳しい弁護士を紹介しますよ。」

a 氏:「著作権の契約はなかなか難しいですね。よろしくお願いします。」


(設問1)

会話の中の空欄Aに入る記述として、最も適切なものはどれか。

著作権は著作者の一身に専属し、譲渡することができませんから
著作権法第21条から第28条の権利は、そもそも対価を支払った者に自動的に移転しますから
著作権法第21条から第28条の全ての権利を特掲しないと、特掲されなかった権利は譲渡した者に留保されたと推定されますから
著作権法第27条と第28条の権利は特掲しないと、これらの権利は譲渡した者に留保されたと推定されますから

(設問2)

会話の中の空欄Bに入る記述として、最も適切なものはどれか。

著作者人格権は移転できますが、職務著作の場合に限られますから修正が必要です
著作者人格権は移転できますが、著作者が法人である場合に限られますから修正が必要です
著作者人格権は移転できませんが、特約があれば移転についてはオーバーライドすることができる任意規定ですから、このままでよいでしょう
著作者人格権は移転できませんし、特約があっても移転についてはオーバーライドできない強行規定ですから、修正が必要です

出典:中小企業診断協会|2019年度 第1次試験問題|経営法務(PDF)


解答

設問1:エ
設問2:エ


解説

【設問1】

ア:×
著作権(財産権)は譲渡可能であり、契約によって第三者に移転することが認められています。「一身専属で譲渡不可」というのは、著作者人格権に関する誤解です。

イ:×
著作権は契約によって明示的に譲渡される必要があります。対価を支払っただけで自動的に移転するわけではありません。譲渡の意思表示と対象範囲の明確化が不可欠です。

ウ:×
著作権のうち、すべての権利を特掲しないと譲渡されないという推定は存在しません。特に翻訳・翻案権や二次的著作物の利用権については、契約書に明示的に記載しない限り譲渡されなかったと推定されます。

エ:〇
翻訳・翻案権および二次的著作物の利用権は、契約書で明示的に譲渡対象として記載しない限り、譲渡されなかったと推定されます。したがって、これらの権利は「特掲」する必要があります。


【設問2】

ア:×
著作者人格権は、職務著作であっても譲渡することはできません。法人が著作者となる場合でも、人格権の移転は認められていません。

イ:×
著作者人格権は自然人にのみ認められる権利であり、法人には発生しません。したがって、法人であるか否かにかかわらず、人格権の譲渡はできません。

ウ:×
著作者人格権は譲渡できない強行規定であり、契約によって移転させることはできません。放棄や不行使の合意は可能ですが、移転そのものは認められていません。

エ:〇
著作者人格権は譲渡できない強行規定であり、契約で移転させることはできません。契約書に「移転する」と記載しても、その効力は認められず、修正が必要です。


学習のポイント

  • 著作権(財産権)は譲渡可能だが、著作者人格権は譲渡不可。
  • 翻訳・翻案権や二次的著作物の利用権は、契約書で明示的に譲渡対象として記載しないと、譲渡されなかったと推定される。
  • 著作者人格権は自然人にのみ発生し、法人には認められない。
  • 実務では、著作権契約書において「特掲」と「人格権の不行使合意」の両方を明記することが望ましい。