難易度・正答率・重要度
- 難易度:★★★☆☆(制度の趣旨と要件の理解が必要。)
- 正答率:★★★☆☆(正答率50〜70%。標準的な難易度。)
- 重要度:★★★★☆(商標トラブル対応として実務でも重要。)
問題文
以下の会話は、中小企業診断士であるあなたと、県内で複数の和菓子店を展開する甲株式会社の代表取締役A氏との間で行われたものである。会話の中の空欄に入る記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
A氏:「おととい、東京にある乙株式会社から警告書が送られてきて驚いています。」
あなた:「どのような内容ですか。」
A氏:「うちで販売するどら焼きの名前が、昨年、乙株式会社が『菓子・パン』について登録した商標と類似するそうで、直ちに販売を中止しなさい、という内容です。どうしたらいいでしょう。」
あなた:「確か、御社のどら焼きは昭和の時代から販売している名物商品ですよね。それであれば、先使用権を主張できるかもしれませんよ。」
A氏:「その先使用権とはどういうものですか。」
あなた:「不正競争の目的でなく、A、継続してその商標の使用をする権利を有する、という商標法上の規定です。」
A氏:「ということは、うちのどら焼きの販売を中止する必要はないのですね。」
あなた:「そうです。知的財産権に詳しい弁護士さんを紹介しますので、相談されてはいかがですか。」
A氏:「よろしくお願いします。」
〔解答群〕
出典:中小企業診断協会|2019年度 第1次試験問題|経営法務(PDF)
解答
正解:イ
乙株式会社の商標登録出願前から、御社がどら焼きについて御社商標を使用していた結果、乙株式会社の商標登録出願の際、現に御社商標が御社の業務に係るどら焼きを表示するものとして、需要者の間に広く認識されているときは
解説
ア:×
単に使用していた、または準備していたというだけでは先使用権は認められません。需要者の間で広く認識されていることが必要です。
イ:〇
先使用権は、商標登録出願前から継続して使用しており、かつその商標が需要者の間で業務表示として広く認識されている場合に認められます。正しい記述です。
ウ:×
「商標登録前から使用または準備していた」というだけでは不十分です。先使用権の成立には、継続使用と広く認識されていることの両方が必要です。
エ:×
内容としてはイと同じですが、「商標登録前」ではなく「商標登録の際」としており、時点の表現が曖昧です。制度趣旨に照らすと不適切です。
学習のポイント
- 先使用権は、商標登録出願前から継続して使用しており、かつ需要者の間で広く認識されている場合に限り認められる。
- 使用の準備だけでは足りず、実際の使用と認識の蓄積が必要。
- 商標トラブルでは、使用開始時期と認知度の証拠が重要。
- 商標登録された後でも、先使用権が認められれば販売継続が可能。