過去問解説(企業経営理論)_2019年(令和元年) 第20問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★★☆☆(組織学習・防衛的ルーティンの理解)
  • 正答率: ★★★☆☆(正答率60%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(変革阻害要因の把握)

問題文

次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。

メーカーA社では、経営陣が「次世代の主力製品」と鳴り物入りで導入した製品Xについて、累積損失が膨らんだため、市場から撤退する決定がなされた。実は5年ほど前から、製品Xには深刻な問題があると気づいていた現場管理者が数人いた。生産上のトラブルが続き、そのコストを価格に転嫁すれば競争力を失うことに気づいていたのである。しかしこの情報が、経営陣に伝わるには時間がかかりすぎた。その原因を探求すると、以下のような状況であったことが分かった。

生産現場の管理者たちは、改善運動で成功してきた実績と有能感を持っていた。当初は、改善運動で問題が処理できると考えていたが、マーケティング面の問題がより深刻であることが分かった。そこで彼らは、製品Xのプロジェクトマネジャー(以下、「ミドル」という)に問題の深刻さを伝える報告書を作成した。A社では、こうした報告書には改善提案を付けることが当然視されていたため、時間をかけて詳細なデータを付けた。

しかしこの精緻な報告書は、製品Xの導入決定の際に、トップ主導で行った生産やマーケティングの調査を根底から覆すような内容を含んでいた。そこでミドルは、まず現場管理者たちに、その報告書に記載されたデータが正しいのか詳しく調べるよう指示した。報告書が正しそうだと分かると今度は、経営陣に悲観的な情報を小出しに流し始めた。経営陣からはいつも「説明資料が長すぎる」と叱られていたので、資料のデータを大幅に割愛し、問題の深刻さをオブラートに包み、現場では事態を十分掌握しているように表現していた。そのため経営陣は製品Xについて、引き続き「次世代の主力製品」と熱い期待を語り続け、必要な財務的資源も保証していったのである。

現場の管理者たちは問題点を指摘したにもかかわらず、経営陣は製品Xへの期待を語り、ミドルからは再検討の要請がなされたため混乱した。そのうち彼らは、製品Xに悲観的な資料を作ることを控え、責任はミドルにあると考えるようになった。やがて、納得したわけではなかったが、あまり気に留めることもなくなった。

(設問 1)

あなたがコンサルタントとしてA社の問題を分析するとしたら、A社の組織メンバーが持つ行動モデルに当てはまるものはどれか。最も適切なものを選べ。

自分たちの考え方を頻繁に検証する。
情報の妥当性を重視する。
積極的にリスクを取ろうとする。
全社的な観点から自己の責任を果たそうとする。
問題の論理的な部分を重視し、感情的な部分は排除しようとする。

(設問 2)

あなたがコンサルタントとしてA社の組織を変革する際に、その方針や手段として、最も適切なものはどれか。

Off-JT のワークショップやセミナーを活用し、真実を明らかにしたからといって不利な立場に立たされることはない、という態度を経営者が率先して組織メンバーに身に付けさせる。
与えられた目標について利得の可能性を最大化し、損失の可能性を最小化するよう、組織のメンバーを動機づける。
管理職には自らの役割を明確にさせ、それを強化するために、他者に指示を出したり、他者を傷つけることのないよう、伝える情報の範囲を自身でコントロールするよう訓練する。
組織のメンバーは個人の責任と業績に応じて適切に報酬を得ることができる、という理念を定着させる。
組織の和を重視し、組織メンバーや既存の制度を脅かすような言動は慎むよう訓練する。

出典: 中小企業診断協会|2019年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

  • 設問1:オ
  • 設問2:ア

解説

【設問1】

ア:×
現場・ミドル・経営陣ともに「自分たちの考え方を頻繁に検証」しておらず、トップ決定を覆す情報は弱められた。

イ:×
報告書の妥当性検証は行われたが、経営陣への伝達でデータを割愛し、妥当性より「受け止めやすさ」を優先した。

ウ:×
リスクテイクよりも、波風を立てない情報統制が選好された。

エ:×
全社観点の責任遂行より、部門内での「無難な対応」が優先された。

オ:〇
問題の「論理的側面」を重視しつつ、対立や不快感(感情的側面)を避けるために情報を弱めるという、アージリスの防衛的ルーティンに近い行動モデルが示されている。

【設問2】

ア:〇
心理的安全性を高め、「不都合な真実」を言語化しても不利益を被らない文化を、経営者が率先して醸成する方針が有効。ワークショップ等のOff-JTは具体的手段として適合。

イ:×
利得最大化・損失最小化の動機づけは、防衛的行動(問題の矮小化・回避)を強化しかねない。

ウ:×
「情報の範囲を自身でコントロール」は現状の問題(情報の小出し・希釈)を助長する。

エ:×
個人報酬の強調は、組織横断の正直な報告をむしろ抑制するリスク。

オ:×
「和の重視」は、異論の抑制や不都合な情報のサプレスを強化しやすい。


学習のポイント

  • 防衛的ルーティン(アージリス):
    ・不快な対立や恥を避けるため、問題を曖昧化・希釈・小出しにする行動様式。
    ・「論理優先・感情抑制」の建前が、真の学習(ダブルループ)を阻害。
  • 組織学習の促進策:
    ・心理的安全性の確保(不都合な真実を言っても不利益なし)。
    ・トップが率先して透明性・検証文化を体現。
    ・Off-JT(ワークショップ、セミナー)で対話・振り返りの場を設計。
  • 試験対策のコツ:
    ・「情報の希釈・小出し」「和の重視で異論抑制」は防衛的ルーティンのシグナル。
    ・解決策は「心理的安全性+率先垂範+対話の制度化」。
    ・利得最大化や情報統制を強める選択肢は、問題の本質を悪化させると判断。