過去問解説(経営法務)_2020年(R2年) 第13問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度:★★★★☆(先使用権と新規性喪失の理解が必要。)
  • 正答率:★★★☆☆(正答率50〜70%。標準的な難易度。)
  • 重要度:★★★★☆(特許紛争対応の基本戦略として重要。)

問題文

以下の会話は、中小企業診断士であるあなたと、E株式会社の代表取締役甲氏との間で行われたものである。
会話の中の空欄AとBに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。


あなた:「御社の紙製ストローの販売が好調のようですね。」

甲氏:「おかげさまで、タピオカミルクティー用の紙製ストローが、プラスチック製ストローの代替製品として好評です。しかし、好事魔多しです。おととい、同業者であるF社からこの紙製ストローが同社の最近登録された特許権を侵害するとの警告書が来ました。どうしたらよいでしょうか。」

あなた:「一般的には、①特許発明の技術的範囲に属していないと反論する、②相手の特許権に対抗する正当権限を主張する、③相手の特許権自体を無効にする、④対抗することが難しい場合はライセンス交渉や設計変更を考える、といった選択肢があります。」

甲氏:「正当権限とはどのようなものですか。」

あなた:「最も一般的なのは先使用権です。この権利を主張するためには、の際、現に、日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者である必要があるので、しっかりした証拠を集めないといけません。」

甲氏:「当社は、ずいぶん前から、大口顧客に試作品を提供して意見を聞いていましたから、証拠はそろえられると思います。ああ、そうだ、このように当社の試作品が早いのですから、相手方の特許発明はすでに新規性がなかったとして特許権を無効とすることはできませんか。」

あなた:「その顧客が店頭で試験的に使用していた可能性もありますね。いずれにしろ、新規性を喪失しているかどうかは、御社試作品の実施の事実がかどうかが問題となります。」

甲氏:「なるほど。」

あなた:「いずれにしろ、警告書に対する回答書を出さなければならないでしょう。よろしければ、特許紛争に強い弁護士を紹介します。」

甲氏:「ぜひ、よろしくお願いします。」


〔解答群〕

A:特許の出願
B:公然の実施に当たる
A:特許の出願
B:多数に対する実施に当たる
A:特許の登録
B:公然の実施に当たる
A:特許の登録
B:多数に対する実施に当たる

出典:中小企業診断協会|2020年度 第1次試験問題|経営法務(PDF)


解答

正解:ア
A:特許の出願
B:公然の実施に当たる


解説

ア:〇
先使用権を主張するには、相手の特許出願時点で、自社が国内で事業の実施または準備をしていたことが必要。
また、特許の無効理由として「公然の実施」が認定されれば、新規性喪失となる可能性がある。正しい組み合わせ。

イ:×
「多数に対する実施」という表現は制度上の要件ではなく、判断基準として不明確。記述は不適切。

ウ:×
先使用権の基準時は「特許の出願時点」であり、「登録時点」ではない。記述は誤り。

エ:×
Bの「多数に対する実施」は制度上の要件ではなく、判断基準として不明確。記述は誤り。


学習のポイント

  • 先使用権は、特許出願時点で国内において事業の実施または準備をしていた者に認められる。
  • 新規性喪失の判断では、発明が「公然に実施されていたか」が重要。
  • 公然の実施とは、不特定多数が認識可能な状態で発明が使用されていたこと。
  • 特許紛争では、先使用権の立証や新規性喪失の証明が有効な防御手段となる。