過去問解説(経営法務)_2020年(R2年) 第19問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度:★★★★☆(改正民法の詐害行為取消制度の理解が必要。)
  • 正答率:★★★☆☆(正答率50〜70%。標準的な難易度。)
  • 重要度:★★★★☆(債権保全・倒産対応に関する重要論点。)

問題文

詐害行為取消権に関する記述として、最も適切なものはどれか。
なお、「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)により改正された民法が適用されるものとし、附則に定める経過措置は考慮しないものとする。


債権者による詐害行為取消請求が認められるには、被保全債権そのものが詐害行為より前に発生していなければならず、その発生原因となる事実のみが詐害行為より前に発生している場合に認められることはない。
債権者は、詐害行為によって利益を受けた者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しをすることはできるが、その行為によって利益を受けた者に移転した財産の返還を請求することはできない。
債務者が、その有する不動産を処分した場合であっても、当該不動産を譲り受けた者から当該不動産の時価相当の対価を取得していれば、債権者による詐害行為取消請求が認められることはない。
詐害行為の目的である財産が可分であり、かつ、その価額が被保全債権の額を超過するときは、債権者は、被保全債権の額の限度においてのみ詐害行為の取消しを請求することができる。

出典:中小企業診断協会|2020年度 第1次試験問題|経営法務(PDF)


解答

正解:エ
詐害行為の目的である財産が可分であり、かつ、その価額が被保全債権の額を超過するときは、債権者は、被保全債権の額の限度においてのみ詐害行為の取消しを請求することができる。


解説

ア:×
詐害行為取消権は、債権の発生原因が詐害行為より前に存在していれば認められる。債権そのものが確定していなくても、原因事実が先にあれば取消し可能。記述は誤り。

イ:×
取消請求が認められた場合、債権者は財産の返還請求も可能である。取消しだけでなく、原状回復の範囲で返還も請求できる。記述は誤り。

ウ:×
譲受人が時価相当の対価を支払っていても、悪意(詐害行為を知っていた)であれば取消しの対象となる。対価の有無だけでは判断されない。記述は誤り。

エ:〇
改正民法では、詐害行為取消権の行使は、被保全債権の額を限度とすることが明示されており、財産が可分であれば部分的な取消しが可能。正しい記述。


学習のポイント

  • 詐害行為取消権は、債務者が財産を不当に処分して債権者の回収を妨げた場合に、債権者が取消しを求める制度。
  • 債権の発生原因が詐害行為より前であれば、取消しの対象となる。
  • 財産の返還請求も含めて、取消しの効果は原状回復を目的とする。
  • 善意の第三者には取消しできないが、悪意があれば対価の有無にかかわらず対象となる。
  • 財産が可分であり、債権額を超える場合は、債権額の範囲でのみ取消しが認められる。