過去問解説(企業経営理論)_2020年(令和2年) 第6問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★☆☆☆(垂直統合の判断軸)
  • 正答率: ★★★★☆(正答率70%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(バリューチェーン設計)

第6問

設計、生産、販売などの活動から構成されるバリューチェーン(価値連鎖)の中で、どのステージ(活動)を自社で行うかの決定が、その企業の垂直統合度を決める。
自社で行う活動の数が多いほど垂直統合度が高く、その数が少ないほど垂直統合度が低いとした場合、完成品メーカーA社の垂直統合度を高くする要因に関する記述として、最も適切なものはどれか。


A社が使用する素材については、仕入先が多数存在しており、どの仕入先からでも、必要な時に品質の良い素材を仕入れることができる。
A社が使用する部品を製造しているすべてのメーカーは、A社に納入する部品製作のために専用機械を購入し、その部品はA社以外に納入することはできない。
A社の完成品を使用する企業や工場は、A社の完成品を使用できなくなると、日常業務が成り立たなくなったり、生産ラインが維持できなくなったりする。
A社は、完成品を作るために必要な原材料や部品を提供している会社との間で、将来起こりうるすべての事態に対してA社が不利にならないような契約を交わすことができる。
A社は販売代理店を通じて製品を販売しているが、景気の回復局面ではその販売代理店はライバル会社の製品を優先して販売する。

出典: 中小企業診断協会|2020年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:オ


解説

ア:×
 供給先が多数で品質も安定している状況は市場からの調達が容易で、垂直統合の必要性は低い。統合度を高める要因ではない。

イ:×
 部品サプライヤーが専用設備でA社に専属納入する状況は、サプライヤー側の資産特殊性が高く、A社の交渉力が強まりやすい。必ずしもA社の垂直統合インセンティブを高めるとは限らない。

ウ:×
 顧客のA社製品への依存度が高いことはA社の市場支配力を強めるが、垂直統合(自社で流通・販売を担う)を必然化する要因ではない。

エ:×
 将来事象を網羅する契約(完全契約)が可能なら、取引コストの不確実性が低下し、統合の必要性は下がる。

オ:〇
 販売代理店が景気局面で競合製品を優先するなら、チャネルでの機会主義リスクが高い。前方統合(直販や自社チャネル構築)で統合度を高め、販売コントロールを確保する合理的動機になる。


学習のポイント

  • 垂直統合の動機:
    ・機会主義やチャネル支配の不安定性が高いとき、前方統合/後方統合のインセンティブが高まる。
  • 統合不要の条件:
    ・供給が分散し、品質・納期が市場で確保できる。
    ・契約で不確実性を十分に管理できる。
  • 資産特殊性の含意:
    ・サプライヤーの専用投資は交渉力構造を変えるが、買い手側の統合必然性とは別問題。状況依存で判断する。
  • 試験対策のコツ:
    ・「チャネルが競合を優先=前方統合の動機↑」「完全契約=統合必要性↓」の基本ロジックを押さえる。