過去問解説(企業経営理論)_2020年(令和2年) 第29問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★★☆☆(セグメンテーションと価格戦略の応用)
  • 正答率: ★★★☆☆(正答率60%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(マーケティング戦略の実践理解)

問題文

次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。


中小企業のX社では、同社が数年間にわたって取り組んできた、温室効果ガスを一切排出しない新しい小型電動バイクの開発が、最終段階を迎えていた。同社では、この新製品を①小型バイク市場または電動アシスト自転車市場等のどのようなセグメントに向けて発売するかについて検討を重ねていた。同時に、②これらの市場においてどのような価格で販売するのがよいかについても、そろそろ決定する必要があった。


(設問1)

文中の下線部①に関する記述として、最も適切なものはどれか。

小型電動バイクと従来型のバイクとの主な差異は、エンジンの構造などの機能面に限定されるから、小型電動バイクにはライフスタイルに基づくセグメントは適さない。
小型電動バイクの走行性能は従来型のバイクに比較して多くの面で劣るため、ベネフィットによるセグメントを検討することは、この製品にとって不利であり、適切ではない。
従来型バイクのユーザーのパーソナリティに関する調査を実施した結果、保守的で権威主義的なユーザーは従来型のバイクを強く好むことが分かったため、これらのユーザーを小型電動バイクのターゲットから除外した。
調査を実施した結果、「保育園に子供を連れて行くための静かで小型の乗り物」を求める消費者の存在が明らかになった。セグメントはより細分化することが必要なので、X社では保育園の規模、子供を連れていく時間帯などの変数を用いて、このセグメントをさらに細分化した上で、ターゲットを選定することにした。

(設問2)

文中の下線部②に関する記述として、最も適切なものはどれか。

X社は、小型電動バイクの開発に要した数年にわたる多大な費用を早期に回収するため、初期価格を高く設定すると同時に多額の広告費を集中投入して、短期間に市場から利益を得る市場浸透価格戦略を採用することにした。
X社は、小型電動バイクの発売に当たり、性能の差により下からA、B、C、Dの4モデルを検討していた。モデル間の性能差は実際には大きくないが、消費者に最上位モデルであるDの品質をより高く知覚してもらうため、モデルAからCまでは小刻みの価格差、CとDの間にはやや大きめの価格差を設定した。
あらかじめプロトタイプのテストを繰り返し、最終的に販売を想定した製品のコストに基づいて価格を決める「ターゲット・コスティング」の方法で価格を設定した。
小型バイク市場では、非常に多くの競合企業間で激しい競争が展開されているため、売り手であるX社だけでなく、買い手である多くのユーザーも市場価格に対する極めて大きな影響力をもつ。
ユーザーが製品やサービスのベネフィットに対して支払ってもよいと考える対価をベースに設定されるさまざまな価格設定方法を、一般にコストベース価格設定と呼ぶ。

出典: 中小企業診断協会|2020年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

  • 設問1:ウ
  • 設問2:イ

解説

(設問1)

ア:×
ライフスタイルに基づくセグメントは適用可能であり、否定するのは誤り。

イ:×
ベネフィットによるセグメントはむしろ有効であり、不利とするのは誤り。

ウ:〇
パーソナリティ調査に基づき、ターゲットを除外するのは適切なセグメンテーションの活用。

エ:×
細分化しすぎると実務上のターゲティングが困難になる場合があり、必ずしも適切ではない。

(設問2)

ア:×
高価格+広告集中は「スキミング価格戦略」であり、市場浸透価格戦略ではない。

イ:〇
価格差の設定により上位モデルの品質を高く知覚させる「価格ラインニング戦略」の説明であり、適切。

ウ:×
ターゲット・コスティングはコスト基準であり、ここでの説明は設問の文脈と異なる。

エ:×
買い手が市場価格に大きな影響力を持つとは一般的に言えない。

オ:×
ベネフィットに基づく価格設定は「価値ベース価格設定」であり、コストベース価格設定ではない。


学習のポイント

  • セグメンテーションの考え方:
    ・市場を細分化する際には、人口統計的変数(年齢・性別など)だけでなく、心理的変数(ライフスタイル・パーソナリティ)や行動変数(利用目的・ベネフィット)も有効。
    ・ターゲットを「選ぶ」だけでなく「除外する」ことも戦略的に重要。
  • ターゲティングの注意点:
    ・細分化しすぎると市場規模が小さくなり、実務上の展開が難しくなる。
    ・セグメントの有効性は「測定可能性」「到達可能性」「規模の十分性」「実行可能性」で判断する。
  • 価格戦略の整理:
    ・スキミング価格戦略=高価格で投入し、徐々に価格を下げて市場を拡大。
    ・市場浸透価格戦略=低価格で投入し、シェア拡大を狙う。
    ・価格ラインニング戦略=複数モデルを用意し、価格差を戦略的に設定して消費者の知覚を操作。
    ・価値ベース価格設定=顧客が感じる価値を基準に価格を決定。
  • 試験対策のコツ:
    「セグメンテーション=誰に売るか」「ターゲティング=誰を選ぶか」「ポジショニング=どう見せるか」をセットで理解する。
    価格戦略は名称と内容を取り違えやすいので、スキミングと浸透の違い、価値ベースとコストベースの違いを明確に整理しておく。