過去問解説(企業経営理論)_2020年(令和2年) 第36問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★☆☆☆(パッケージ価値の理解)
  • 正答率: ★★★★☆(正答率70%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(UXと知覚の基礎)

問題文

パッケージ・デザインに関する記述として、最も適切なものはどれか。


多くのパッケージ・デザインにおいて蓋ふたは左に回せば開くようになっているように、パッケージでは人にある行動を自然に起こさせるアフォーダンスが重視される。しかしコモディティ化が進む中、アフォーダンスとは異なる新しい使い方の提案は、パッケージを通して差別化を図り、価値を高めやすい。
消費者がブランドに対して抱くイメージに対してパッケージ・カラーは強く影響を与えるため、食品パッケージの色を濃くすることによって濃い味の商品であることを伝達することができる。しかし、パッケージ・カラーの色の濃さが、実際の商品の味覚にまで影響することはない。
脳の半球優位性に基づくと、パッケージにおいて画像は右に、文字は左に配置したほうが商品の評価を高めることができるため、このルールはほとんどのパッケージ・デザインで採用されている。
パッケージにおける便宜価値は、開けやすい、使いやすい、持ちやすい、捨てやすいといったパッケージの改良によって高めることができる一方、感覚価値は、パッケージ・デザインに対する情緒面の感覚が中身にまで移るような感覚転移の効果を生じさせることによって高めることができる。
ブランドを他の文化圏へ拡張する際に、パッケージがブランド・エクイティの維持や活用にどの程度役割を果たすかという点で評価される基準は、防御可能性と呼ばれる。パッケージ上のネームやカラーは、拡張先の特徴や文化的意味合いを考慮しながら移転を進める必要がある。

出典: 中小企業診断協会|2020年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:エ


解説

ア:×
アフォーダンスは重要だが、「アフォーダンスとは異なる使い方の提案」が常に価値を高めるとは限らず、誤操作や使い勝手低下のリスクもあるため一般化は不適切。

イ:×
パッケージの色や意匠は味の知覚に影響し得る(色による味の期待・強度の知覚が変わる)ため、「味覚に影響しない」は誤り。

ウ:×
画像右・文字左のルールが普遍的に有効という科学的根拠はなく、カテゴリや文化、レイアウト文脈によって最適配置は変わる。

エ:〇
便宜価値は操作性・携行性・廃棄性などの改良で高まり、感覚価値はパッケージから中身への情緒的評価が転移する感覚転移により高まる。

オ:×
防御可能性は商標・意匠などの保護可能性の文脈で用いられることが多く、ここでの評価軸はむしろ移転可能性・一貫性の観点で語られるべきである。


学習のポイント

  • パッケージの価値:
    ・便宜価値=開けやすさ・使いやすさ・持ちやすさ・捨てやすさ。
    ・感覚価値=色・形・素材・仕上げが情緒を喚起し、味・品質の知覚に転移する。
  • 知覚への影響:
    視覚・触感・音(開封音)などのクロスモーダルな要素が、期待と実体験の評価を変える。
  • デザイン原則の扱い方:
    普遍則としての「右画像・左文字」は存在しない。視線導線、情報階層、販売文脈(棚での視認性)に合わせて設計する。
  • グローバル展開の留意点:
    パッケージ要素の移転は、法的保護(防御可能性)だけでなく、文化適合性・色彩連想・表記規制・サステナビリティ要件を総合的に評価する。
  • 便宜価値と感覚価値の両立:
    パッケージは単なる容器ではなく、利便性と感覚的価値の両方を提供する。
    ・便宜価値=開封・使用・廃棄のしやすさ。
    ・感覚価値=色・形・素材・触感などが情緒的に中身の評価へ転移する。
  • 感覚転移の重要性:
    視覚や触覚の印象が、味覚や品質評価に影響する。例:高級感あるパッケージは中身の味や品質を「より良い」と感じさせる。
  • クロスモーダル効果:
    ・色→味覚の強さや甘さの知覚に影響。
    ・音→開封音が新鮮さや品質感を強調。
    ・触感→素材の質感が高級感や信頼感を伝える。
  • 試験対策のコツ:
    「便宜価値=機能的利便性」「感覚価値=情緒的転移」と整理して覚えると混乱しにくい。
    また、パッケージはブランド体験の一部であり、UX(ユーザー体験)全体に直結することを意識する。