難易度・正答率・重要度
- 難易度: ★★☆☆☆(ファイブフォースの応用)
- 正答率: ★★★★☆(正答率70%前後)
- 重要度: ★★★☆☆(業界構造と収益性)
第6問
次の文章を読んで、問題に答えよ。
X社は全社的な成長に向けて、新たな業界に参入して、新規事業を展開することを計画している。参入先の候補として考えられているのは、AからEの 5 つの業界である。社内で検討したところ、各業界の重要な特性として、次のような報告がプロジェクトチームから上がってきた。なお、X社では、いずれの業界においても、各業界における既存の取引関係を用いるとともに、製品・サービスの質とコストに関して既存企業と同様の条件で参入することを想定している。
A業界: この業界には、既に 5 社が参入している。主要な原材料は老舗のF社から 5 社に対して安定的に供給されている。A業界の製品は規模が類似した代理店 5 社を通じて販売されている。
B業界: この業界では、 4 社が事業を展開している。G社が主要な原材料に関する特許を保有しているために、これら 4 社は、原材料をG社から購入する契約を結んでいる。これら 4 社の製品は、H社が全量購入している。
C業界: この業界には、既に 4 社が参入している。主要な原材料は 5 社から購入できるが、生産工程での安定性を考えると、その 1 社であるK社の原材料が優れているために、K社の販売数量は他の 4 社の合計よりも多い。C業界の製品の販売を委託する企業は 5 社存在するが、その中でもL社が強い営業力を有し、他の 4 社を圧倒した市場シェアを獲得しており、ガリバー的な存在である。
D業界: この業界では、 6 社が事業を営んでいる。D業界の製品は技術革新により年々性能が向上しているが、その性能向上は、主要な原料を供給するM社の技術革新を源泉としているために、全量をM社から調達している。D業界の製品は特殊なサポートが必要であることから、そのサポート体制を有するN社を通じて全量が販売されている。
E業界: この業界には、既に 2 社が参入している。原材料の汎用性は高く、コストと品質で同等の水準となる供給業者が 10 社存在している。顧客は 5 つの業界であり、いずれの業界でも、規模が類似した 10 社以上が事業を展開している。
以上に記された情報に基づいて、各業界での競争状況、供給業者の交渉力、買い手の交渉力を業界構造として総合的に考えた場合に、X社が参入する業界として、最も高い収益性(売上高に対する利益率)が期待されるものはどれか。
出典:中小企業診断協会|2021年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)
解答
正解:オ
解説
ア:×
単一の主要原材料供給者(F社)と、販売側も5社の代理店で対抗的。この構造では供給者・流通の交渉力が中程度以上で、収益性は圧迫されやすい。
イ:×
原材料の特許を握るG社が独占的供給者、買い手もH社が全量購入の準独占。供給者・買い手の交渉力が極めて強く、当該業界の利益率は低下しやすい。
ウ:×
形式上は複数供給者・複数販売委託だが、原材料はK社が事実上の支配的地位、販売もL社がガリバー。上流・下流とも強い単一支配があり、収益の取り分は圧迫される。
エ:×
原料はM社から全量調達、販売もN社が全量担う縦の支配構造。技術起源が供給者にあるため差別化も供給者依存となり、業界の利益率は伸びにくい。
オ:〇
原材料は同等品質・コストの供給業者が10社と多く、供給者の交渉力が弱い。買い手側も5業界×各業界10社以上で分散し、単一の強い買い手が不在。既存競争は2社と少なく、総合的に利益率が最も高くなる構造。
学習のポイント
- ファイブフォースの要諦:
供給者・買い手が分散し、代替や新規参入の脅威が低く、競争者数が少ないほど平均収益率は高まる。 - 支配的供給者/買い手の影響:
上流や下流に独占・寡占があると価格・条件交渉で不利となり、利益が吸い上げられやすい。 - 分散構造の利点:
複数の同等供給者と多様な買い手が存在する市場では、交渉力バランスが企業側に傾きやすい。 - 試験対策のコツ:
「誰が力を持っているか」を上流・中流・下流で整理して比較し、総合的収益性が高い構造を選ぶ。