過去問解説(企業経営理論)_2021年(令和3年) 第8問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★☆☆☆(起業理論の基本概念)
  • 正答率: ★★★★☆(正答率70%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(エフェクチュエーションの5原則)

第8問

サラス・サラスバシー(S. D. Sarasvathy)は、経験豊富な起業家の経験より抽出された実践的なロジックから構成されるエフェクチュエーション(effectuation)という概念を生み出した。エフェクチュエーションは、「手段(means)」からスタートし、「これらの手段を使って、何ができるだろうか」と問いかけることから始める。
その点で、「結果(effect)」からスタートし、「これを達成するためには、何をすればよいか」を問うコーゼーション(causation)と対比されるものである。
このエフェクチュエーションを構成する 5 つの行動原則に関する記述として、最も不適切なものはどれか。


許容可能な損失(affordable loss)の原則とは、創業後に事業を継続するかどうかを判断する際に、事前に設定した許容可能な損失の上限に達したという理由で、事業を途中でやめないということである。
クレイジーキルト(crazy-quilt)の原則とは、起業活動に必要な自分以外との関係性をあらかじめ作成した設計図に基づいてつくるのではなく、起業後に自分を取り巻く関与者と交渉しながら関係性を構築していくことである。
手中の鳥(bird in hand)の原則とは、もともと自分が持っているリソースを使って行うことである。具体的には自分が何者であるか、自分は誰を知っているか、そして自分は何を知っているのかを認識して、それらを活用することから始めることである。
飛行機の中のパイロット(pilot in the plane)の原則とは、予測できないことを避けようとするのではなく、予測できないことのうち自分自身でコントロール可能な側面に焦点を合わせ、自らの力と才覚を頼って生き残りを図ることである。
レモネード(lemonade)の原則とは、予測できないことを前向きに捉え、不確実性を梃子のように利用しようとすることである。

出典:中小企業診断協会|2021年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:ア


解説

ア:〇
 許容可能な損失は「失ってもよい範囲でしか賭けない」原則。上限に達したら撤退・縮小・ピボット等で損失を制御するのが趣旨であり、「やめない」は原則に反する。

イ:×
 クレイジーキルトは、コミットメントを通じてステークホルダーを巻き込み、関係性を相互に編み込む考え方。記述は概ね正しい。

ウ:×
 手中の鳥は「今ある手段(自分は何者か/誰を知るか/何を知るか)から始める」。記述通り。

エ:×
 パイロット・イン・ザ・プレーンは、予測よりコントロールに重心を置く原則。自らの行為で未来をつくるという趣旨で、記述は適合。

オ:×
 レモネードは偶発的出来事や不確実性を好機に転換する原則。記述は適合。


学習のポイント

  • 5原則の対比:
    手中の鳥/クレイジーキルト/許容可能な損失/レモネード/パイロット・イン・ザ・プレーンを揃えて暗記。
  • 許容可能な損失の解釈:
    事前に損失上限を定め、その範囲で実験を繰り返す。上限超過は撤退・縮小・ピボットの合図。
  • コーゼーションとの違い:
    コーゼーションは「目的→手段」、エフェクチュエーションは「手段→可能性」。問題文の対比をそのまま覚える。
  • ステークホルダーの巻き込み:
    クレイジーキルトは事前設計ではなく、相手のコミットメントから共創関係を編む。
  • 偶発性の活用:
    レモネードは予期せぬ出来事を実験機会・新市場への扉として利用する発想。