過去問解説(企業経営理論)_2021年(令和3年) 第22問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★★☆☆(両利きの経営の理解)
  • 正答率: ★★★☆☆(正答率60%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(探索と深化の両立)

第22問

企業の長期的成長のためには、既存事業の深化(exploitation)と新規事業の探索(exploration)のバランスを取る経営が重要だと言われている。C.A.オライリー(C. A. OʼReilly)とM.L.タッシュマン(M. L. Tushman)は、この深化と探索を両立する組織能力を両利き(ambidexterity)と名づけた。
両利きの経営を実践するための組織に関する記述として、最も適切なものはどれか。


既存事業ユニットと新規事業探索ユニットが経営理念を共有し、公平性を確保するために、共通の事業評価基準を構築する必要がある。
既存事業ユニットと新規事業探索ユニットのオペレーションを効率的に管理するために、機能横断的なチームを設計する必要がある。
既存事業ユニットと新規事業探索ユニットを構造上分離しつつ、異なる文化が生まれないようにするため、ビジョンを共有する必要がある。
既存事業ユニットと新規事業探索ユニットを構造上分離し、探索ユニットに独立性を与えるとともに、全社的な資産や組織能力にアクセスする権限を与える必要がある。

出典: 中小企業診断協会|2021年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:エ


解説

ア:×
 既存事業と新規事業は不確実性・収益性・時間軸が異なるため、同一の評価基準に縛ると探索が早期打ち切りになりやすい。公平性の名目で共通基準を強制するのは不適切。

イ:×
 機能横断的チームは連携を高める手段だが、探索と深化を同一組織に押し込むと相互干渉が強まり、探索の柔軟性が損なわれやすい。両利きの中核要件を満たしていない。

ウ:×
 構造分離は適切だが、「異なる文化が生まれないようにする」は逆。探索には試行錯誤を許容する文化、深化には効率重視の文化が必要で、文化は意図的に差別化する。

エ:〇
 構造的両利きの要諦は、探索ユニットの「独立性」と、既存の資産・能力への「アクセス権」を併存させる設計。分離による保護と、統合による資源活用を同時に確保する。


学習のポイント

  • 両利きの経営(ambidexterity)
    既存事業の効率性追求(深化)と、新規事業の探索的学習(探索)を同時に実現するための組織能力。短期成果と長期成長を両立させる視座が必要。
  • 構造的分離とアクセス権
    探索ユニットを組織構造上分離し、意思決定の自律性を担保する一方で、ブランド・チャネル・技術・人材などの全社資産にアクセスできる仕組みを設ける。
  • 評価基準と文化の設計
    探索と深化には異なるKPI(学習・顧客検証 vs. 収益・効率)と異なる文化(実験志向 vs. 手順遵守)が必要。同一基準・文化の強制は探索を阻害する。
  • 試験対策のコツ
    「分離で守る+アクセスで活かす」が鍵。共通評価や文化統一、単純な横断チーム設計には要注意。