過去問解説(企業経営理論)_2022年(令和4年) 第32問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★☆☆☆(サービス・マーケティングの基礎)
  • 正答率: ★★★★☆(正答率70%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(顧客満足と価値創造)

問題文

次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、さまざまな業界において消費者の需要が低迷する中、多くの企業が製品やサービスを見直したり、新規事業を立ち上げたりすることによって、高い顧客満足を達成し、新たな顧客を獲得しようと考えている。


(設問1)

文中の下線部①に関する記述として、最も適切なものはどれか。

元来、メーカーにとって工場で生産した製品を流通業者に販売した時点でビジネスは終了することが多かったが、近年は最終消費者への販売後の使用や消費の場面を含めてビジネスを設計する必要性が説かれている。このような傾向は「製造業のサービス化」と呼ばれる。
顧客がサービスを購入し対価を支払う時点を指して「真実の瞬間」と呼ぶが、このときサービスの品質やコストパフォーマンスに関する顧客の知覚が最も鋭敏になる。
サービスに対して消費者が感じる品質を知覚品質と呼ぶが、近年はスマートフォンのアプリなどを通じてデジタルで統一的にサービスが提供されることも多く、この場合はすべての消費者にとって知覚品質も一定となる。
サービスの特徴として、無形性、不可分性、異質性などとともに消滅性がしばしば指摘されるが、近年のSNSの浸透などによって、サービス提供の場面が撮影・録画の上で共有されるケースが増えてきたため、消滅性の問題は解消されつつある。
製品と同様にサービスにも、探索財、経験財および信用財がある。これらのうち信用財とは、サービス提供者の信用が特に重要となる高級ブランドや高価格のサービスなどを指す。

(設問2)

文中の下線部②に関する記述として、最も適切なものはどれか。

企業が高い顧客価値の提供を通じて高い顧客満足を達成した場合、当該ブランドにロイヤルティを形成した顧客は真のロイヤルティを有する顧客であるから、その時点では、見せかけのロイヤルティを有する顧客が含まれる可能性は低い。
顧客満足を高い水準に保つためには、サービスの現場においてスマートフォンのアプリによるアンケートなどを活用して顧客の意見や不満などを常に確認し、顧客の要望はすべて実現する必要がある。
これからあるサービスを利用しようと考えている消費者にとって、サービスの品質は事前に把握できるのに対して、サービスの満足は利用してみなければ分からないという点で異なっている。
相互に競合するいくつかのブランドのサービスの中で、消費者が特定ブランドのサービスを長く利用することは、それだけで当該消費者がそのブランドに対して高い顧客満足を感じている指標となる。
品質の測定に関して、製品の品質は物理的に測定可能なのに対し、人間によって提供されるサービスの品質を測定することは困難である。このようなサービスの品質を測定するための1つの尺度として顧客満足が用いられるが、製品の品質を測定するために顧客満足が用いられることはない。

出典:中小企業診断協会|2022年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

  • 設問1:正解 ア
  • 設問2:正解 ア

解説(設問1)

ア:〇
 製品販売後の使用・消費段階まで含めて価値を設計する「製造業のサービス化(サービタイゼーション)」は近年の重要な潮流。顧客体験全体を視野に入れることで新たな価値を創出できる。

イ:×
 「真実の瞬間」とはサービス提供の接点での顧客体験を指すが、購入・支払い時点に限定されない。

ウ:×
 知覚品質は主観的評価であり、デジタル提供でも消費者ごとに異なる。統一的になるわけではない。

エ:×
 サービスの消滅性は「在庫できない」特性を指す。SNSで記録・共有できても、サービスそのものを保存・再提供できるわけではない。

オ:×
 信用財とは、提供後も品質評価が困難な財を指す。高級ブランドや高価格サービスに限らず、医療や法律サービスなども含まれる。

解説(設問2)

ア:〇
 高い顧客価値の提供により満足が高まった場合、形成されるロイヤルティは「真のロイヤルティ」となり、単なる利便性や価格要因で一時的に選ばれる「見せかけのロイヤルティ」とは区別される。したがって、この記述は適切である。

イ:×
 顧客満足を維持するために顧客の声を収集することは重要だが、すべての要望を実現することは現実的ではなく、必ずしも満足度向上につながるとは限らない。

ウ:×
 サービスの品質は事前に完全に把握できるものではなく、利用前には不確実性が残る。品質も満足も利用後に評価される要素が大きいため、記述は不正確。

エ:×
 長期利用は必ずしも高い満足を意味しない。スイッチングコストや代替の少なさによって継続利用している場合もある。

オ:×
 顧客満足はサービス品質の測定に用いられるが、製品品質に対しても顧客満足調査は広く活用されている。製品に限定して用いられないというのは誤り。


学習のポイント

  • 製造業のサービス化
    製品販売後の利用・体験まで含めて価値を設計する発想。顧客体験全体を重視する。
  • サービスの特性
    無形性・不可分性・異質性・消滅性。SNSで記録できても「在庫できない」特性は残る。
  • 財の分類
    探索財(購入前に品質が分かる)、経験財(使用後に分かる)、信用財(使用後も評価困難)。
  • 顧客満足とロイヤルティ
    ・真のロイヤルティ:高い満足に基づく継続利用・推奨
    ・見せかけのロイヤルティ:価格や利便性など外的要因による一時的継続
  • 試験対策のコツ
    「サービスの特性」「財の分類」「真のロイヤルティと見せかけのロイヤルティの違い」を整理して覚えることが重要。