過去問解説(企業経営理論)_2023年(令和5年) 第7問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度:★★☆☆☆(提携・買収の基礎)
  • 正答率:★★★★☆(正答率70%以上)
  • 重要度:★★★☆☆(協業設計の重要論点)

問題文

M&Aや戦略的提携に関する記述として、最も適切なものはどれか。


異業種間のM&Aでは、自社の必要としない資源までも獲得することがあり非効率が生じやすいが、規模の経済のメリットを享受できる。
戦略的提携では、パートナーが裏切る可能性があり、それを抑制するために事前にデューデリジェンスを行うことが必須である。
戦略的提携では、パートナーに開示する情報を選択することを通じて、パートナーの学習速度に影響を与えることができる。
同業種間のM&Aは、範囲の経済と習熟効果の実現というメリットがあることから、異業種間のM&Aに比べて統合コストは低い。
買収者以外の株主にオプションを与えるなどして買収コストを引き下げようとすることを、ポイズンピルと呼ぶ。

出典:中小企業診断協会|2023年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:ウ


解説

ア:×
 異業種M&Aは補完資源の獲得で「範囲の経済」を狙う文脈が一般的。規模の経済は同業での統合で発揮されやすく、記述は整合的でない。

イ:×
 デューデリジェンスはM&Aで必須の精査だが、戦略的提携で「裏切り抑止のために必須」とは限らない。抑止には契約設計(段階的開示・マイルストーン・相互出資等)が要点。

ウ:〇
 提携では、知識リークや学習の偏りを避けるため、開示範囲・タイミング・深度を設計し、相手方の学習速度に意図的に影響を与えることができる。

エ:×
 同業M&Aは重複統合に伴う文化・システム・顧客の統合コストが高くなることも多い。範囲の経済は異業補完で発揮されやすい。習熟効果は必ずしも同業優位の専売ではない。

オ:×
 ポイズンピルは敵対的買収防衛策で、買収者以外の既存株主に新株予約権等を与え、買収者のコストを「引き上げる」仕組み。記述の「引き下げる」は逆。


学習のポイント

戦略的提携の開示設計
 情報の段階的・選択的開示、共同タスクのスコープ設定で知識移転のペースをコントロールする

M&Aのシナジー種類
 規模の経済(同業集中)と範囲の経済(異業補完)を区別し、どの統合で何が効くかを整理する

防衛策の正確な理解
 ポイズンピルは買収者の持分希薄化とコスト増を狙う防衛であり、「コスト引き下げ」ではない

統合コストの実務視点
 文化・IT・プロセス・ブランド統合の難易度は同業でも高くなり得るため、事前のPMI計画が鍵