過去問解説(企業経営理論)_2023年(令和5年) 第8問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度:★★★☆☆(各理論の正誤判定)
  • 正答率:★★★☆☆(正答率50〜70%)
  • 重要度:★★★☆☆(新市場創出理論の整理)

問題文

新事業や新市場の創出に関する記述として、最も適切なものはどれか。


E. リースの「リーン・スタートアップ」理論に基づけば、不確実性が非常に高い事業の場合、成功要因の把握は非常に難しいため、多額の調査費を投入して潜在的な需要を把握し、時間をかけて綿密な計画を立てる必要がある。
G. A. ムーアの「キャズム」理論に基づけば、イノベーターとアーリー・アドプターはテクノロジーに対する姿勢は共通するが、実用性志向の程度が異なり、その相違によって新市場の拡大において越えることが最も難しい大きな溝(キャズム)が生み出されている。
S. D. サラスバシーの「エフェクチュエーション」理論に基づけば、熟達した起業家は、事前に市場を明確に定義して、セグメンテーションやターゲティング、ポジショニングを設定することによって、不確実性の高い状況でも新事業を創出することができる。
W. チャン・キムと R. A. モボルニュの「ブルーオーシャン戦略」に基づけば、顧客価値を高める差別化の要素を持つことと、コストを押し下げることを併せ持つことが、新市場の創出に重要である。
他社に先駆けてデファクト・スタンダードを獲得することは新事業における競争優位につながるため、デファクト・スタンダードの決定に重要な役割を果たす ISO のような国際的な標準化機関との間で調整や協議を進める必要がある。

出典:中小企業診断協会|2023年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:エ


解説

ア:×
 リーン・スタートアップは「調査に多額投資して計画を練る」のではなく、MVP(実用最小限製品)を市場に投入し、顧客反応を素早く学習して方向修正するアプローチ。

イ:×
 キャズム理論で大きな溝が生じるのは「アーリーアダプター」と「アーリーマジョリティ」の間。イノベーターとアーリーアダプターはどちらも新技術に積極的であり、ここに大きな溝はない。

ウ:×
 エフェクチュエーションは「事前に市場を明確に定義」するのではなく、手中の手段から出発し、関与者との協働を通じて柔軟に市場を形成していく理論。

エ:〇
 ブルーオーシャン戦略は「差別化」と「低コスト」を同時に実現することで、競争のない新市場を創出することを目指す。

オ:×
 デファクト・スタンダードは市場競争の結果として形成されることが多く、ISOのような標準化機関が決定するのはデジュール・スタンダード。混同している。


学習のポイント

リーン・スタートアップ
 不確実性が高いときは「小さく作って早く学ぶ」。MVPとピボットが鍵。

キャズム理論
 越えるべき溝は「アーリーアダプター」と「アーリーマジョリティ」の間にある。

エフェクチュエーション
 「予測」ではなく「手中の手段」から始め、協働で未来を共創する。

ブルーオーシャン戦略
 差別化と低コストの両立で新市場を切り拓く。バリューイノベーションが中心概念。

標準化の区別
 デファクト=市場で自然に形成、デジュール=公的機関による制定。