過去問解説(企業経営理論)_2023年(令和5年) 第31問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★★☆☆(流通チャネルとD2Cの基礎)
  • 正答率: ★★★★☆(正答率70%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(マーケティングチャネル論)

問題文

次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。

食品メーカーA社では、これまで①卸売業者や小売業者を介した間接流通チャネルと電子商取引を用いてきた。近年は多くの食品メーカーが ②D2C に乗り出しており、この動きにどのように対応するかも1つの課題であると考えている。


(設問1)
文中の下線部①に関する記述として、最も適切なものはどれか。


ある業界において多くのメーカーが零細である場合、卸売業者の役割は小さいため、その業界の流通チャネル上に存在する卸売業者の数も少なくなる傾向がある。
ある業界において中小小売業者が多いほど、これら中小小売業者とメーカーをつなぐ卸売業者が多段階化し、その数も多くなる傾向がある。
卸売は卸売業者だけが行うものではなく、小売業者によって行われることもある。しかしメーカーが販社を作って行う小売業者向けの販売は、卸売ではない。
小売とは最終消費者に対して商品を再販売する商業活動であるのに対して、卸売とは最終消費者だけでなく他の卸売業者や小売業者、産業用使用者に対して商品を再販売する商業活動である。
大規模に成長した小売業者との取引を確保・拡大するために、近年の卸売業者に求められている方策の1つがロジスティックス機能の強化である。この機能は一般にサードパーティ・ロジスティックスと呼ばれ、卸売業者の生き残りをかけた重要な戦略となっている。

(設問2)
文中の下線部②に関する記述として、最も適切なものはどれか。


一般に D2C とは、卸売業者や小売業者から構成される従来の流通チャネルを介することなく、自社サイトや大手ネットショッピング・モールを通じて、自社の製品を直接消費者に販売することを指す。
米国のスタートアップ企業などが自社サイトを活用して自社の世界観を伝え、顧客との接点を育てながら自社製品を直接販売して急速に成長したのが D2C の始まりであるが、SNS を積極的に利用することも多くの D2C に見られる特徴の1つである。
メーカーが D2C に進出するためには、自社サイトを構築し、顧客管理、決済システムなどを単独で開発する必要がある。
メーカーが流通チャネルを介さずに直接消費者に自社製品を販売することは、従来「メーカー直販」と呼ばれてきた。ほとんどのメーカーは、既存の間接流通チャネルとメーカー直販を両立させ、間接流通チャネルの卸売業者や小売業者の支持を得ながらメーカー直販を拡大してきた。

出典:中小企業診断協会|2023年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

  • 設問1:イ
  • 設問2:イ

解説(設問1)

ア:×
 メーカーが零細であるほど、卸売の中継・集約・標準化機能はむしろ重要になりやすく、卸の役割や段階が縮小するとは限らない。

イ:〇
 小売が分散・零細な市場では、メーカーと多数の小売を橋渡しするために卸売が多段階化し、数も増える傾向がある。

ウ:×
 卸売は「最終消費者以外への再販売」であり、メーカーの販社による小売業者向け販売は卸売に該当する。卸売ではないという記述は誤り。

エ:×
 小売は最終消費者への再販売、卸売は小売・卸・産業用使用者など「事業者」への再販売であり、最終消費者は卸売の対象に含まれない。

オ:×
 3PLは「外部の物流専門業者への委託」を指す概念。卸売業者が自社の物流機能を強化する施策を3PLと一般呼称するのは不適切。


解説(設問2)

ア:×
 D2Cは中間を介さず「自社主導の直接販売」が核で、プラットフォーム依存のモール販売は純粋D2Cとは異質になりやすい。

イ:〇
 D2Cの潮流は、独自サイトとSNSで世界観を発信し、顧客接点を育てつつ直接販売して成長した米国発の事例に端を発する。SNS活用は代表的特徴。

ウ:×
 D2Cに必ずしも自社単独開発は不要。EC、CRM、決済はSaaSや外部サービスで構築可能で、スピードと学習が重視される。

エ:×
 メーカー直販はチャネル競合を招くことがあり、卸・小売の支持を得つつ拡大したという一般化は不適切。両立の是非は業界構造や政策次第。


学習のポイント

  • 卸売の機能(集約・標準化・物流)
    零細なメーカー・小売が多い市場ほど、卸は取引コストを下げる中継機能を発揮しやすく、段階が厚くなる。
  • 卸売と小売の定義の線引き
    卸売は事業者への再販売、小売は最終消費者への再販売。メーカー販社の対小売販売は「卸売」に当たる。
  • 3PLの正確な意味
    物流機能の「外部委託」を指し、卸が自社物流を強化する施策そのものを3PLとは呼ばない。
  • D2Cの起源と特徴
    自社サイトとSNSを核に世界観を構築し、顧客関係を直接育成して販売するモデル。プラットフォーム依存とは異なる。
  • D2Cの実装手段
    自社開発に限定されず、SaaSや外部サービスを組み合わせて迅速に立ち上げるのが一般的。