過去問解説(企業経営理論)_2023年(令和5年) 第32問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★★☆☆(デジタル・マーケティングの基礎)
  • 正答率: ★★★★☆(正答率70%前後)
  • 重要度: ★★★☆☆(現代マーケティングの必須知識)

問題文

次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。

さまざまな新しい SNS の登場や、メタバースなどの新しい技術の登場により、デジタル・マーケティングが急速に進展している。このようなトレンドを背景にして、消費者同士のクチコミやインフルエンサーの影響力などに対しても、ますます注目が集まっている。


(設問1)
文中の下線部①に関する記述として、最も適切なものはどれか。

アドネットワーク・プラットフォーマーは、広告枠の運用を効率化したい大規模メディアからの委託を受け、これらのメディアの運営者に代わり広告枠を広告主に販売する。自ら広告枠を販売することができない個人サイトや中小サイトなどのメディアが、アドネットワーク・プラットフォーマーに広告枠の運用を委託することはできない。
オフライン店舗を中心にマーケティングを展開してきた企業が、新たにオンライン・チャネルを開設した際にしばしば問題となるのが、両チャネル間で消費者の認知・検討と購買が分離することである。この対策として、店舗を利用する従来の顧客を新たなオンライン・チャネルへ誘導する O2O に加えて、近年はオンラインとオフラインを融合する OMO などの方策も採られるようになった。
広告主が対価を払って出稿する広告はペイド・メディアと呼ばれてきたが、その中でも特に複数の広告主が共同で支出する大規模なキャンペーンなどは、近年はシェアード・メディアと呼ばれる。
需給バランスや時期などによって製品やサービスの価格を変動させるダイナミック・プライシングの方法は、デジタル技術と AI の登場によって広く行われるようになった。また、利用者ごとに柔軟に価格を変える方法もダイナミック・プライシングに含まれる。

(設問2)
文中の下線部②に関する記述として、最も適切なものはどれか。

カスタマー・ジャーニーにおけるタッチポイントとは、企業やマーケターと顧客との接点であり、SNS やレビューサイトなどに投稿された当該企業に関連するクチコミも、タッチポイントである。
実際には企業が費用を負担している広告であるにもかかわらず、広告であることを隠して行われるステルス・マーケティングは、特にインフルエンサーを用いたマーケティングに多く見られる。2022 年には消費者庁が、このようなステルス・マーケティングを不当廉売として規制する方向で準備を開始した。
スマートフォンを用いて誰もが日常生活の中で気軽に SNS に写真や意見などを投稿できるようになった結果、それらを閲覧する消費者の製品やサービスへの平均的な関心の強さや知識レベルなどは低下する傾向が見られ、結果としてカスタマー・ジャーニーにおけるクチコミの重要性も低下している。
製品やサービスの仕様や性能などに関する探索属性と呼ばれる情報が豊富であることは、SNS やクチコミサイトなどに投稿されるクチコミの最大の強みである。

出典:中小企業診断協会|2023年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

  • 設問1:エ
  • 設問2:ア

解説(設問1)

ア:×
 アドネットワークは大規模メディアだけでなく、中小サイトや個人サイトも参加可能。広告枠を束ねて効率的に販売する仕組みである。

イ:×
 O2OやOMOの説明は正しいが、設問①の文脈(デジタル技術の進展)における最も適切な答えではない。

ウ:×
 シェアード・メディアは「企業と顧客が共同で作るメディア(SNS投稿やUGC)」を指す。複数広告主の共同出稿を指すものではない。

エ:〇
 ダイナミック・プライシングはAIやデジタル技術により普及。需給や利用者属性に応じて価格を柔軟に変える方法も含まれる。


解説(設問2)

ア:〇
 タッチポイントは顧客と企業の接点であり、SNSやレビューサイトのクチコミも含まれる。

イ:×
 ステルスマーケティングは問題視されているが、消費者庁は「不当表示」として規制を検討しており、「不当廉売」とは異なる。

ウ:×
 SNSの普及によりクチコミの重要性はむしろ増大している。低下するという記述は誤り。

エ:×
 クチコミの強みは「経験属性」や「信頼性」にあり、仕様や性能といった探索属性はむしろ企業公式情報で得やすい。


学習のポイント

  • アドネットワークとメディア分類
    アドネットワークは大小様々なメディアを束ね、広告主に販売する仕組み。
  • O2OとOMOの違い
    O2Oはオンラインからオフライン(または逆)へ顧客を誘導する施策で、チャネル間の連携が中心。OMOはオンラインとオフラインの体験自体を統合し、顧客視点でシームレスな体験を設計する。
  • ダイナミック・プライシングの範囲
    需給・時間帯・在庫・顧客属性などに応じて価格を柔軟に変動させる。個別顧客に応じた価格も含み得るが、透明性と公正性の配慮が不可欠。
  • タッチポイントの設計
    企業公式チャネルだけでなく、SNS上のクチコミ・レビューも重要な接点。認知から購買後までの各段階で、適切なメッセージと体験を配置する。
  • クチコミの強みと限界
    実体験に基づく経験属性の情報と第三者の信頼が強み。一方で偏りや操作リスクもあるため、モデレーションと透明性の担保が必要。