過去問解説(企業経営理論)_2023年(令和5年) 第35問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★★☆☆(消費者行動と心理効果)
  • 正答率: ★★★☆☆(正答率50〜70%)
  • 重要度: ★★★☆☆(マーケティング心理の基礎)

問題文

次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。


消費者ニーズの充足や顧客満足の向上を目指すマーケティングにとって、消費者を理解することは不可欠である。企業は、①消費者の購買意思決定プロセス②消費者に及ぼす心理的効果についての理解を通して、適切なマーケティングを実行していく必要がある。


(設問1)
文中の下線部①に関する記述として、最も適切なものはどれか。


購入したブランドの欠点と購入しなかったブランドのベネフィットなどを考えた結果、生じる認知的不協和には、自分なりの基準に見合う商品が見つかれば購入に至るタイプの消費者よりも、選択に膨大な時間と手間をかけて最高の選択をしようとするタイプの消費者の方が陥りやすい。
購買意思決定に必要な情報探索は、広告や販売員の説明といった売り手主導のマーケティング情報を探すという外部情報探索と、クチコミなどの買い手によるマーケティング情報を探すという内部情報探索とに分類される。
購買意思決定プロセスのスタートは、消費者が満たされていない特定のニーズを認識することから始まるが、こうしたニーズのうち、企業がアンケート調査を実施しても把握することができないニーズは真のニーズである。
消費者の意思決定に及ぼす準拠集団の影響の中で、消費者が自分のイメージを高めたりアイデンティティを強化できると期待して、憧れや尊敬を抱く集団と同じブランドを購入したり利用したりするという形で現れる影響のことを情報的影響という。
製品関与は、製品やサービスの購入の必要性や緊急性、店舗環境や品揃えなどの購買状況の魅力によって左右される関与のことであり、製品関与が高くなるほど購買決定における情報探索活動は活発になる。

(設問2)
文中の下線部②に関する記述として、最も適切なものはどれか。


アンカリング効果は、全く同じコーヒーが1,000円で提供されていた場合に、高級ブランド店が立ち並ぶエリアにあるカフェではそれほど高価に感じないが、若者向け商品を低価格で提供するカジュアルな店が立ち並ぶエリアにあるカフェでは高価に感じるような現象を説明することができる。
サンクコスト効果は、事前に購入する回数券の使用期限が近づくほど利用頻度を増加させることによって使い切ろうとする消費者心理を説明することができる。
バンドワゴン効果は、小さなカップにあふれそうな量を盛り付けることで人気のジェラート店が、今までと同じ量を入れても余裕がある大きさのカップに変更した結果、以前よりも顧客が商品に価値を感じなくなるという現象を説明することができる。
プロスペクト理論は、交通費や昼食費は数百円の支出でも痛みを感じて節約しようとするにもかかわらず、コンサートや洋服といった自分の好きなことやモノに対しては数百円の支出の増加は気にならないという現象を説明することができる。

出典: 中小企業診断協会|2023年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

  • 設問1:ア
  • 設問2:ア

解説(設問1)

ア:〇
 認知的不協和は、購入後に「本当にこれで良かったのか」と迷う心理。特に「最良の選択」を求めて多くの時間を費やす消費者(マキシマイザー)は陥りやすい。

イ:×
 外部情報探索は広告・販売員・口コミなど外部から得る情報。内部情報探索は自分の記憶や経験を参照すること。記述は誤り。

ウ:×
 アンケートで把握できないニーズは「潜在ニーズ」。真のニーズとは異なる。

エ:×
 憧れや尊敬する集団に合わせる影響は「同調的影響(価値表出的影響)」であり、情報的影響ではない。

オ:×
 製品関与は製品自体への関心の高さ。購買状況による関与は「状況的関与」と呼ばれる。混同している。


解説(設問2)

ア:〇
 アンカリング効果は、基準や文脈により同じ価格でも高く感じたり安く感じたりする心理。設問の例は適切。

イ:×
 サンクコスト効果は「既に支払った費用を惜しんで非合理的に行動を続ける心理」。回数券の例は「先払い効果」に近い。

ウ:×
 これは「コンテイナー効果(容器サイズによる知覚変化)」の説明であり、バンドワゴン効果(多数派に流される心理)ではない

エ:×
 プロスペクト理論は「損失回避」の心理を説明する理論であり、同じ金額でも「得る喜び」より「失う痛み」を強く感じるというもの。設問の例は「心理会計」や「主観的価値の差異」に近く、プロスペクト理論の説明としては不適切。


学習のポイント

  • 認知的不協和
    購入後に「本当に正しい選択だったのか」と迷う心理。特に「最良の選択」を求めるマキシマイザー型の消費者が陥りやすい。
  • 情報探索の分類
    内部情報探索=自分の記憶や経験を参照。
    外部情報探索=広告・販売員・口コミなど外部から得る情報。
  • 準拠集団の影響
    ・情報的影響=正しい情報を得るために他者を参照する。
    ・価値表出的影響(同調的影響)=憧れや尊敬する集団に合わせる。
    ・規範的影響=集団の規範に従うことで承認を得る。
  • 関与の種類
    ・製品関与=製品自体への関心の高さ。
    ・状況的関与=購買状況や環境による一時的な関与。
  • 心理的効果の代表例
    ・アンカリング効果=基準や文脈により価格や価値の感じ方が変わる。
    ・サンクコスト効果=既に支払った費用を惜しんで非合理的に行動を続ける。
    ・バンドワゴン効果=多数派に流される心理。
    ・プロスペクト理論=損失回避の傾向。
  • 試験対策のコツ
    「用語と定義の正確な対応」を押さえることが重要。似たような心理効果を混同しないように整理して覚える。