過去問解説(企業経営理論)_2023年(令和5年) 第36問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度: ★★★☆☆(サステイナビリティとマーケティング)
  • 正答率: ★★★☆☆(正答率50〜70%)
  • 重要度: ★★★★☆(現代マーケティングの必須知識)

問題文

次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。

持続可能な社会実現への要請が強まるなか、企業には、①利益と社会的責任を両立させるマーケティングを検討するだけでなく、消費者に②サステイナブルな消費行動を促す努力も求められている。


(設問1)
文中の下線部①に関する記述として、最も適切なものはどれか。

M. ポーターが提示した CSV(Creating Shared Value)の概念では、本業と関係のある事柄で、本業の利益に還元されるものが重視され、CSR(Corporate Social Responsibility)の概念よりも社会的課題を事業活動そのものと結びつけようとする側面が強調されている。
SDGs 経営を目指す企業は、積極的に社会的課題の解決に取り組むことを通じて取り残されてきた市場を新たに獲得するために、経済的利益にこだわってはならない。
社会へ良いことをすることが企業への好感度や売り上げの向上につながるという考えの下で実施されるプロモーションのうち、本業の利益への還元を強く意識して実施されるものをソーシャル・グッドという。
製品やサービスの売り上げの一部を特定の社会的課題への支援に活用するマーケティング活動はメセナと呼ばれ、この活動を増やすほど当該課題に対する関心が高まり、企業の新規顧客の獲得やブランド・イメージの醸成につながりやすい。
直接的な顧客のニーズや満足だけではなく、社会全体の幸福を維持・向上させながら顧客価値を創造し、伝達し、説得していこうとするマーケティングはソサイエタル・マーケティングと呼ばれ、P. コトラーが提唱するマーケティング 4.0 と対応する。

(設問2)
文中の下線部②に関する記述として、最も適切なものはどれか。

多くの消費者の間には、サステイナブルな社会の実現に向けて自身の行動を変えようと説得する企業からのメッセージに好意的な態度を示す一方で、実際にサステイナブルな行動をとることは少ないという態度と行動とのギャップが存在する。
サステイナブルな消費行動を促すためには、製品の使用価値を重視させるよりも、所有価値を重視させるマーケティングが有効である。
製品を購入する際には、できるだけ地球環境に配慮した製品を選択しようとする考え方をソーシャリズムといい、この考えに沿って行動する消費者をグリーン・コンシューマーという。
レジ袋の有料化のように社会的課題を消費者個人の責任へと転嫁するアプローチは、消費者に支持されやすく反発を生じさせない。

出典: 中小企業診断協会|2023年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

  • 設問1:ア
  • 設問2:ア

解説(設問1)

ア:〇
 CSV(Creating Shared Value)は、CSRよりも「社会的課題を事業活動と結びつけ、本業の利益に還元する」ことを重視する概念。ポーターが提唱し、CSRの枠を超えて社会課題解決と利益創出を両立させる点が特徴。

イ:×
 SDGs経営は経済的利益を否定するものではなく、社会的課題解決と利益追求を両立させることを目指す。

ウ:×
 「ソーシャル・グッド」は一般に社会的に良い取り組み全般を指す言葉であり、本業利益への還元を強調する用語ではない。

エ:×
 売上の一部を社会課題に寄付する活動は「コーズ・リレーテッド・マーケティング」と呼ばれる。メセナは文化・芸術支援活動を指す。

オ:×
 ソサイエタル・マーケティングは「社会全体の幸福を考慮したマーケティング」だが、コトラーのマーケティング4.0とは別概念。


解説(設問2)

ア:〇
 サステイナブル消費に関しては「態度と行動のギャップ(Attitude-Behavior Gap)」が存在する。多くの消費者は理念に賛同するが、実際の行動には結びつきにくい。

イ:×
 サステイナブル消費を促すには「所有」よりも「使用・体験価値」を重視する方が有効。シェアリングエコノミーなどが代表例。

ウ:×
 環境配慮型の購買行動は「グリーン・コンシューマー」と呼ばれるが、「ソーシャリズム」という用語は誤り。

エ:×
 レジ袋有料化のような施策は、環境配慮行動を促す一方で「負担増」と受け止められ、反発や不満を招くこともある。必ずしも支持されやすいわけではない。


学習のポイント

  • CSVとCSRの違い
    CSRは「社会的責任を果たす」活動全般を指すが、CSVは「社会課題の解決を本業と結びつけ、利益創出と両立させる」点が特徴。
  • コーズ・リレーテッド・マーケティングとメセナ
    売上の一部を寄付する活動はコーズ・リレーテッド・マーケティング。
    メセナは文化・芸術支援活動を指す。用語の混同に注意。
  • ソサイエタル・マーケティング
    顧客満足と社会全体の幸福を両立させるマーケティング。マーケティング4.0とは別概念。
  • 態度と行動のギャップ
    サステイナブルな社会に賛同する態度はあっても、実際の購買行動に結びつかない現象。グリーン・マーケティングの難しさの一因。
  • 消費者行動を促す工夫
    ・所有価値より使用価値を重視させる(シェアリングエコノミーなど)。
    ・小さな行動変容を積み重ねる「ナッジ」の活用。
    ・価格転嫁型施策(例:レジ袋有料化)は反発リスクがあるため、説明責任や代替手段の提示が重要。