過去問解説(企業経営理論)_2024年(令和6年) 第8問

難易度・正答率・重要度

  • 難易度:★★★☆☆(誤答肢の吟味が必要)
  • 正答率:★★★☆☆(正答率50〜70%。標準的な難易度)
  • 重要度:★★★☆☆(頻出ではないが、学習価値が高い)

問題文

衰退業界とは、景気変動や短期的要因によるものではなく、長期にわたって販売数量そのものが下降を続けている業界のことである。M. ポーターの衰退業界の競争戦略に関する記述として、最も適切なものはどれか。


買い手が価格に敏感でなく、かつ買い手の交渉力が小さいほど、業界の売上が縮小しても、残存者は利益を得やすい。
企業が業界内で強力なポジションを占めているほど、企業による業界の衰退予想はより悲観的になりやすい。
急激かつ無軌道な衰退プロセスが予想されるほど、その業界の競争の激しさは減少する。
業界衰退期の戦略の1つである刈り取り戦略とは、高い利益率を生み出す特定のセグメントを見い出し、その防衛を目指す戦略である。
業界衰退の速度は、技術進歩や人口変化などの環境要因によって決まるもので、個々の企業の撤退戦略とは関係ない。

出典:中小企業診断協会|2024年度 第1次試験問題|企業経営理論(PDF)


解答

正解:ア


解説

ア:〇
 買い手の価格感度が低く、交渉力が弱ければ、需要縮小下でも価格下落圧力は小さく、残存者が利益を確保しやすい。衰退業界における収益性維持の鍵は価格支配力の保持である。

イ:✕
 強いポジションほど固定客・規模・コスト優位を確保できるため、一般に衰退局面でも相対的に楽観的な見通しを持ちやすい。悲観が強まるとは限らない。

ウ:✕
 急激で無秩序な衰退は価格競争や在庫圧力を増幅し、競争の激しさをむしろ強める。競争が減少するわけではない。

エ:✕
 刈り取り戦略は投資を極力抑え、価格維持やコスト削減で短期的キャッシュを最大化する方針であり、特定セグメントの防衛・育成を目的とする戦略(ニッチ集中)とは異なる。

オ:✕
 衰退速度は環境要因だけでなく、退出障壁や各社の撤退・価格政策等に大きく左右される。企業の戦略選択と無関係ではない。


学習のポイント

  • 衰退業界で残存者が利益を得やすい条件は「買い手の価格感度が低い」「交渉力が弱い」「退出障壁が低く競合が整理される」。
  • 刈り取り戦略は「投資縮小+価格維持(または漸進的引き上げ)+コスト削減」でキャッシュ最大化を図る。ニッチ集中とは目的・手段が異なる。
  • 衰退速度と収益性は、環境要因に加え、退出障壁(固定資産の特殊性、契約義務、感情的要因)や各社の価格・撤退方針で動的に変化する。